数々の死闘が繰り広げられた、2023年のWBC。アメリカ行きの切符をかけた「運命の一戦」ともいえる準々決勝のイタリア試合では、大谷翔平がチームに謝る一幕があったという。監督を務めた栗山英樹が「翔平の『すみません』という言葉を初めて聞いた」と振り返るほどの緊急事態はなぜ起こったのか。『WBC 世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ』(三木謙将・金沢隆大著/文藝春秋刊)から一部を抜粋してお届けする。(全4回の3回目/続きを読む)
◆◆◆
イタリア戦の大谷は「誰も声をかけられるような雰囲気ではなかった」
WBCで2回目の先発となった大谷がイタリア戦のマウンドに上がる。勝てばアメリカ行きが決まる試合だ。一塁側ダグアウトからそのピッチングを見つめた栗山は【一球目から全力で声をあげて投げていく さすが これが最後の一球という感じで投げていた】とメモに記していた。記者席から見ていても球数やペース配分は考えていないように思えた。まるで先に点を取られたら負けてしまうかのように。そんな気迫の投球でスコアボードに「0」を重ねていく。
メモは続く。
【投球後も、攻撃中も一切座らない。格闘家がリングに上がる前のように、ふうー、ふうーと息を吐きながら、ずっと後ろで見ている。まさに誰も声をかけられるような雰囲気ではなかったという】
大谷が勝利への執念を見せたのはマウンドだけではない。0対0の3回、ワンアウト一塁で迎えた第2打席だった。前の打席と同様にイタリアの守備シフトは大きく右に寄っている。ショートがセカンドベースの右側、サードが本来のショートの守備位置付近についていた。
この打球傾向とデータに基づいた対策の前に、第1打席ではセンター前に抜けるかという痛烈な打球をショートに好捕されていた。誰もが次はシフトが無意味になる特大の当たりで試合の均衡を破ることを期待していた。
ピッチャーがモーションに入ると大谷はバットを横にして、三塁線へセーフティーバントを試みる。完全に意表を突かれたピッチャーはなんとか打球に追いついたものの、一塁へ悪送球となり一塁三塁とチャンスが広がった。
