2023年のWBCで世界一になった侍ジャパン。チームのムードメーカーとして人気を博したのが、日系人の母を持つラーズ・ヌートバーだ。日本語がほとんど話せず、日本のプロ野球経験もないヌートバーがチームになじめた背景には、合流初日に選手たちが着用していた“謎Tシャツ”の存在があった。
数々の激闘を制した采配の裏側で、指揮官が日々記してきたノートと、栄冠への軌跡を描いた書籍『WBC 世界を制した采配の秘密 三原ノートと栗山メモ』(三木謙将・金沢隆大著/文藝春秋刊)から一部を抜粋してお届けする。(全4回の2回目/続きを読む)
◆◆◆
選手たちが見慣れないTシャツを着てウォーミングアップしていた
3月3日のメモ。【今日翔平とヌートバーが来日した】とシンプルに記されていた。
午後2時20分ごろ。小型の飛行機が県営名古屋空港に着陸した。日本中の野球ファンが待ち望んだ男がそこにいた。一般の到着口を通らずに飛行機のそばに用意された車に乗り込む。向かった先は日本代表がいるバンテリンドーム ナゴヤ。
さらに別のルートで名古屋に入っていたヌートバーが予定通りチームに合流した。ドームの3階にある、報道陣向けのメディアサロンに設置されているテレビから流れるワイドショーやネットニュースの速報はまさにWBC一色。この大会の注目度の高さを改めて思い知らされる。
練習前に球場内で行われたチームミーティング。大谷とヌートバーが拍手で迎え入れられた。栗山はその場でシンプルかつ明快な言葉を発した。
「期間は短いがいいチームを作って勝つしかない」
この日、主役の大谷が報道陣の取材に応じた。チームの輪に入った率直な思いを口にした。
「自分が今、出せる100%をしっかり試合の中で出すことがチームにとっても一番大事になってくる。コミュニケーションを取りながら、もっともっといいチームになれるように頑張りたい」
ベンチ前に目をやると、ウォーミングアップを行う選手たちが見慣れないTシャツを着ていた。白をベースに背中には戦いの場のぴりっとした空気を和らげるようなひらがなの文字。「たっちゃん」と書かれていた。
