「哲人もすごい緊張してましたよね」

「厳しいところに投げていたし、最後も際どかった。フォアボールもヒットも一緒だというような。焦ったり、困ったりする感じがなかった」

 四球を嫌がり失投したわけでも、打たれるのを恐れて逃げ腰になったようにも見えなかった。勝負に行かなければいけない場面で勝負した結果がわずかに外れたフォアボール。決して心がぶれているわけではないと、結果ではなく投げたボールで判断した。

©文藝春秋

 勢いづくアメリカの打順は1番に戻ってムーキー・ベッツ。さらに代走も起用し攻勢に転じてきた。ライトライナーで終わらないかな……。ベンチから栗山はそう祈るようにメジャーのスター同士の対戦を見ていた。1球目、156キロのストレートでまずはストライクを取る。栗山の見立て通り大谷が崩れる様子はなかった。

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 2球目、ベッツが打ち返したゴロはセカンドの真正面に飛ぶ。山田ががっちり捕球し、セカンドベースに入ったショートの源田にボールをトスする。源田が流れるような動作でボールを受けてベースを蹴りワンアウト、そしてファーストへ送球しツーアウト。ダブルプレー。一塁塁審の手が上がると大谷が吠える。これ以上ない最高の結果となった。

「ベッツのゲッツーなんてイメージできなかったけど、なんと『マジ! セカンドゴロ打ったー』って思った瞬間に、哲人もすごい緊張してましたよね」

「あの瞬間、『勝った』と思いました。神様が日本を勝たせるって決めたんだなと」

 反撃ムードから一転してツーアウトランナーなし。追い込まれたアメリカの打者はトラウト。素振りをしてからバッターボックスに入る。頼れるチームメートだった2人はお互いの国を背負って対戦相手として対峙している。

 まるで漫画やドラマのような展開だ。18.44メートルの間で向かい合う2人を見つめた栗山は、大会前に多くの関係者やメディアから何度も聞かれていた質問を思い出していた。

「大谷対トラウトってどこかで起こらないですか?」

 決勝で大谷を先発させるしかその可能性はない。登板間隔や起用法から考えれば絶対にないシチュエーションだった。だからこそ「100%ない」と思っていた。ところが予想もしていなかったベッツの併殺打により、あとアウト1つで勝ちという場面でのトラウトとの勝負が生まれた。ある意味で想定外、イメージできていなかったことが起こった瞬間に栗山は確信した。

「トラウトが歩いてくるのが見えた瞬間に僕は『勝った』と思いました。そんなことは起こりえないので、神様が日本を勝たせるって決めたんだなと思いました」

 栗山はメモにこう記していた。

【物語が完成する】

最初から記事を読む 「大谷翔平」でも「村上宗隆」でも「ダルビッシュ有」でもない…栗山英樹がWBC2023で“いの一番”にチームへ招集したかった「2人の選手」とは?

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