「柱が揺らいでいると、人命に関わってきます」
小説の中で、主人公が師匠から告げられる言葉がある。「自然と動物に対して八方美人になるな」——このセリフは、河﨑氏自身の体験から生まれたものだ。
羊を飼い、牛を飼い、柵の向こうにはクマやシカがいる世界で暮らしてきた河﨑氏は、「状況に応じた立ち振る舞いや、例えば山菜を採りに行く際に『少し奥に入りすぎたから引き返そう』と判断するような、自分なりの基準があります」と語る。
自然や動物を大切にする心は尊い。だが、それが自分の命を危険にさらすほどになれば本末転倒だ。「その柱が揺らいでいると、本当に人命に関わってきます」。
ハンターはとりわけ、この「柱」を必要とする。動物の命を奪う行為に、迷いは致命的だ。「『ここで殺すべきか、殺さないべきか』といった一瞬の迷いが、自身に危険をもたらすリスクは非常に大きいのではないでしょうか」と問われると、河﨑氏は「現場で絶対的に優先すべきは人命第一であり、そこは揺るがしてはならない原則だと考えます」と断言した。
言葉にできない感情を抱えて
ハンターたちは、自分の内面をあまり語らない。河﨑氏が取材した中にも、「ちょっと格好つける人もいれば、恰好つけたくないのであまり語らない人など、いろんな方がいました」という。
小説の中で、主人公はクマを撃った後に号泣する。それに対し、ベテランハンター・勇吾は「俺もあるんだ」と打ち明ける。このシーンについて、河﨑氏は「もし実際のハンターが、感情の波みたいなもので泣いたとしても、多分人には言わないのでは」と推測する。
生き物を追い詰め、仕留める瞬間。人間が何を感じるかは、制御できるものではない。河﨑氏がハンターたちから学んだのは、そうしたリアリティだった。

