新作『夜明けのハントレス』(文藝春秋)の執筆にあたり、直木賞作家・河﨑秋子氏は現代のハンターへの取材だけでなく、明治・大正・昭和のハンターたちが残した記録にも目を通した。そこには、現代では想像もつかないような過酷な猟の記録が残されていた。クマの恐るべき生命力、そして猟師たちの執念——文献から浮かび上がるのは、命がけの闘いの歴史である。(全2回の2回目/はじめから読む)
【北海道出身・元羊飼いが描いた“クマ撃ち”物語】クマは「心臓が撃たれても追いかけてくる」|増えるクマ被害…共生は可能か|「兄は鹿を撃ち、自分が捌く」『夜明けのハントレス』【直木賞作家・河﨑秋子】
(初出:「文藝春秋PLUS」2026年2月21日配信)
一頭のクマを追って、冬の山々を越えていく
河﨑氏が参照したのは、ハンター自身が書き残した一次資料だ。「現代のハンターはもちろん、明治、大正、昭和のハンターが自ら記した記録も数多く、特に昭和の戦前・戦後にはかなりの数が存在しました」。
そこに記されていたのは、「とんでもない」光景だった。「例えば、一頭のクマを追って何十、何百キロも移動し、冬の山々を越えていくといった記録が残されています」。現代では考えられない距離を、ただ一頭のクマを追って移動する。遭難のリスクも当然ある中での、まさに命がけの追跡だ。
仕留めた後も過酷だ。「山中で獲物を仕留めて解体し、何十キロにもなる肉を背負って帰還するのです」。車もない時代、すべてを人力で担いで下山する。その労苦は想像を絶する。
