北海道を舞台に、女性ハンターの成長を描いた新刊小説『夜明けのハントレス』(文藝春秋)。その執筆にあたり、直木賞作家・河﨑秋子氏は道内各地のハンターへの取材を重ねた。猟に同行し、彼らの技術と思想に触れる中で見えてきたのは、命と向き合う者だけが持つ揺るぎない「柱」だった。(全2回の1回目/続きを読む

【北海道出身・元羊飼いが描いた“クマ撃ち”物語】クマは「心臓が撃たれても追いかけてくる」|増えるクマ被害…共生は可能か|「兄は鹿を撃ち、自分が捌く」『夜明けのハントレス』【直木賞作家・河﨑秋子】

(初出:「文藝春秋PLUS」2026年2月21日配信)

ベテランハンターの猟に同行

  河﨑氏が同行したのは、車を使わず徒歩で山に入り、エゾシカを探し出して仕留め、その場で解体するという一連の猟だった。「五感を使い、経験と照らし合わせながら獲物を探していく様子を間近で見ることができました」と河﨑氏は振り返る。

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  素人には気づけない痕跡——シカの歩いた跡、立ち寄りやすい水場——をベテランハンターは的確にたどっていく。「シカの足跡や立ち寄りやすい水場といった痕跡を正確にたどっていく様子が、非常に印象的でした」。その嗅覚は、長年の経験が培った技だ。

河﨑秋子氏

  取材で最も印象に残ったのは「止め刺し」の場面だという。弾を撃ち込んだ後、首元にナイフを入れて血管を切断し、放血する工程だ。「実家にいた頃、兄がシカを仕留めた際はすでに止め刺しが終わった状態で運ばれてきていたため、その過程は見たことがありませんでした」。雪の上に広がる赤い血。命の重みを、河﨑氏は肌で感じた。