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長回しワンカットの世界

『カメラを止めるな!』は後半に至って面白さやスピード感が増していくスロースターターな映画ですが、前半の力業も見どころです。映画内ゾンビ映画のタイトルが「ワンカット・オブ・ザ・デッド」という名の通り、長回しでまさにカメラを止めない、その分段取りに手間がかかっている造りです。本作をご覧になって、長回しに興味を持った方にはぜひ、その手法を用いた過去の作品をチェックしていただきたいです。

©ENBUゼミナール

 日本のヒット作で長回しといえば、薬師丸ひろ子主演の『セーラー服と機関銃』(81年、相米慎二監督)。角川のアイドル映画といったイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、本作のカットを割っていないシーンを意識して観ると驚嘆するはず。暴走族が道路を走る場面など相当すごいことをしています。カットを割らない表現に、技巧というより野蛮なほどの力業を用いているので、観ていて現場のスタッフの胃に穴が開きそうな苦労を想像してしまいます。

『カメラを止めるな!』をもっと楽しむための「あの映画」

 撮影現場は俳優や監督のほかに、カメラマンや照明や小道具、美術など様々な職種の人が関わっています。『カメラを止めるな!』だと、特殊メイクが慌ただしく加わっているのはわかりやすいですね。カットをかければ、次のシーンまでにそれぞれの作業に時間がかけられますが、長回しだと次のタイミングが決まった状態での作業となるので、スタッフの負担が重くなります。そもそも最初に、監督の思惑や脚本通りに撮影するため、どういった段取りが必要かを考える作業も大変です。
 

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 そういった手間を伴う長回しで有名なのは、『カメラを止めるな!』でもキーとなるクレーン撮影を用いた、オーソン・ウェルズ監督の『黒い罠』(58年)。冒頭で男女が車に乗り込み発車するシーンを捉えたカメラは、その後別のカップルを追いかけ始めますが、彼らがひとしきり芝居をしたところへ再び車が現れます。カメラに写っていない所で車が待機していたとしても、主役たちがセリフを言い終えた瞬間、ナチュラルなタイミングで車が入ってくるのは相当段取りがいるはず。クレーンだけでは不可能な動きもあり、カメラマンがどう移動して撮影しているのかを推察しつつ観るのも、長回し映画の醍醐味です。

 近年では映画全編がワンカットという作品も何本か出てきています。デジタルカメラではそれが可能になったことや、じつはカットを割って精密につないでいる、擬似ワンカットの技術も発達したためです。昔のフィルム撮影ではカメラやフィルムの尺の構造上、物理的に全編ワンカットは不可能でした。しかし昔の映画が数分間でも、今よりカメラが重く光量も必要な撮影で、複雑な長回しに挑んでいるのもいまの映画と変わらず面白いです。ぜひ、そんなことも気にして鑑賞してみてください。

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