変化がそのままの状態で現れやすい
堀江医師によると、テストステロンは血液からも測れるが、精液のほうがより正確な数値を導き出すことができるという。仕組みはこうだ。
人間の体内には成人で約4~5リットルの血液が流れている。対して精液の量は、せいぜい十数ccと圧倒的に少ない。
人の体は、何か異常や変化が生じたとき、その変化を覆い隠すような平衡化、均衡化を図ることで正常な状態に近づけようとする働きが起きる。これを「ホメオスタシス」と呼ぶが、体内の量が多い血液は、ホメオスタシスの影響を受けやすい。そのため、血液を検体にすると、体内で実際に起きている変化も、ある程度マスキングされた状態で数値化される傾向にある。
これに対して量の少ない精液は、ホメオスタシスの影響が小さい。体内で何らかの変化が起きている時、その変化がそのままの状態で現れやすい――というのだ。
「テストステロンを測る時、血液よりも精液のほうが精度の高い数値を得ることができます。少なくともテストステロンに関して言えば、血液よりも精液のほうが優れた検体ということができるのです」(堀江医師)
近年は「性差医療」といって、男性と女性の体の構造的な違いに基づく医療の構築が進んでいる。「男性医療」「女性医療」という言葉が用いられ、それぞれの個別性に立脚した医療の研究開発に注目が集まっている。
そんな中、男性医療において、精液は一躍存在感を増してきたわけだ。
こうした動きを背景に、精液検査を専門に行うベンチャー企業も登場している。
自宅で採取した精液を専用の検査キットで郵送することで、男性医療の面からわかる健康状態を判断するサービスの実用化が進んでいるのだ。
検体を採取する――という行為を考えたとき、血液や尿が医療機関で簡単に取れるのに対して、精液を取り出すにはひと手間かかる。この問題を「郵送キット」はクリアする。自宅で採取して郵送する――という形をとることで、プライバシーが保たれるのだ。
精液の医療利用は、現実味を帯びてきている。
採血は針を刺すという痛みを伴うが・・・・・・
堀江医師は言う。
「男性の体は何歳になっても精液を作り続け、何歳になっても射精は可能。つまり、精液を利用した検査に年齢制限はないのです」
採血は針を刺すという痛みを伴うが、射精に伴うのは快感だ。
男性読者の皆さん、精液の有用性のさらなる解明に期待しようではありませんか!