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「きっかけは“ブランド牛”なんです」

 そんな不遇の体液である精液を、検体として役立てられないものだろうか――と考えた医師がいる。『ヤル気が出る! 最強の男性医療』(文春新書)の著者で、順天堂大学医学部泌尿器科教授の堀江重郎医師だ。

堀江重郎医師

「きっかけは“ブランド牛”なんです。畜産の世界では、高品質の牛肉を安定供給するため、人工授精に用いる牛の精子の保存環境を重要視します。精液の状態がいいほど精子の活動性が高く、それが肉質の良し悪しを左右することがわかっていた。ならば、同じ哺乳類の人間でも、精液から何らかの健康状態を分析することができるのではないか、と」

 堀江医師が目を付けたのは、“テストステロン”。これは男性ホルモンの一種で、男性の体内で非常に重要な役割を担っているという。

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「テストステロンは、骨や筋肉の強度の維持、性欲や性機能の維持、血液を作る働き、動脈硬化やメタボリックシンドロームの予防、さらには認知機能に代表される脳の働きまで任されているのです」

“勝負”に出たときのトレーダーのテストステロン値

 そう語る堀江医師によると、テストステロンには健康上の働き以外にも、男性が他者と共存し、その中で自分を表現する“社会性”においても、非常に大きな働きを示していることが近年の研究で明らかになってきているという。

「ケンブリッジ大学が行った調査によると、ロンドンの金融街で働くトレーダーのテストステロンの量の変化を検証したところ、大きな取引、つまり“勝負”に出たときのトレーダーのテストステロンの値が高い、という結果が出たのです。この研究は医学だけでなく、金融工学の面からも注目を集めました。また、ドイツのボン大学で行われた研究によると、テストステロンを配合した塗り薬を皮膚に塗ったグループと、薬効のない薬を塗ったグループに分けて、自分がどちらのグループなのかを知らせずに、インチキができる状況で賭け事をさせたとき、テストステロンを塗ったグループはインチキをしていなかった――という結果が出ました。つまり、男性ホルモンが高いほうが“正直”という結果が出たのです」

©iStock.com

 堀江医師によると、大きな勝負に出ることは男性の強さの一つの表れであり、正直に行動することは“正義感”という、男としてのプライドを示すものと考えられるという。

「テストステロンが多い男性ほど“男性力”と“社会性”の面で優れていると考えるに値する科学的な相関性はあると思われる。テストステロンの量を調べることで、社会性は別としても、男性の健康やアンチエイジングに役立てることはできるのです」