物置で埃をかぶっていた壺やら掛け軸やらが、じつは高価なものだった、という話は、よくあることではないが、たまにあるらしい。

 それまで「価値がない」とされていたものに、ある日突然価値が生じる――そんな突然の評価の変化が、人間の身体でも起きることがある。以前はただの排泄物だったものが、“検体”として役立つことがわかってきたというのだ。

 突如チヤホヤされ始めた元排泄物とは、「精液」です。

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血液や尿と比べて明らかに扱いが低かった

 最初に理解してほしいのは、今回のテーマは「精液」であって「精子」ではないということ。女性の体内で卵子と結合し、受精、妊娠を経て赤ちゃんが生まれる。この一連の工程の主人公となるのは精子と卵子。したがって、精子は元々「無価値」ではない。

 しかし、その精子を保護する目的で存在する精液には、これまであまり大きな役割が見出されることはなかった。

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 もちろん妊娠を目的とする性交時の射精においては、その精子に栄養を与え、保護するという重要な任務を精液は担っているが、それ以外の場合、早い話が快楽のみを目的とした射精の際には、精液はただの排泄物として処理される存在だった。

 医学的に見ても同様で、精液は同じ体液でも血液や尿と比べて明らかに扱いが低かった。

不妊治療でも数える対象はあくまで精子

 血液は昔から病気の原因を探る上で、重要な検体として用いられてきた。現在も何らかの病気が疑われる際には、「まず採血」がセオリーだ。

 尿も、血液ほどではないものの、「検尿」という言葉があるくらいで、やはり検体として利用される。尿中の血液や膿の混入の有無を見ることで、病気の存在を特定する手掛かりとなる。

 一方の精液はどうだろう。

 医療機関で精液を採取するといえば、不妊治療の際に精子の数を調べる時くらい。それとて精液に用事があるわけではなく、数える対象はあくまで精子だ。