9月15日、厚生労働省が2016(平成28)年度に医療機関に支払われた医療費の速報値である「概算医療費」を公表しました。それによると、14年ぶりに減少に転じ、前年比2千億円減の41兆3000億円となったそうです。ただし、75歳以上の医療費は伸び続けており、減少は一時的なものと見られています(2017年9月16日付「朝日新聞」)。
実際、日本の医療費は膨張し続けています。06(平成18)年度の国民医療費は33兆1000億円でした。ですから、たった10年間で8兆円以上も医療費が増えたことになります。国民所得に対する医療費の割合も05(平成17)年度は8.55%だったのが、15(平成27)年度には10.91%に増えました。つまり、私たちが稼ぎ出すお金から負担する医療費の割合も、じわじわと重くなっているのです(厚生労働省「平成27年度 国民医療費の概況」)。
格安で医療を受けられているように「錯覚」しているだけ
日本は国の保険制度が充実しているので、医療機関にかかっても自己負担割合が低く(現役世代は3割、70~74歳までは原則2割、75歳以上は原則1割)、医療費の負担感が少ないと言われています。しかし、医療費はすべて、私たちの懐(自己負担+保険料+公費)から出ています。格安で医療にかかれているかのように「錯覚」していますが、現実には莫大な医療費のすべてを自分たちが支払っているのです。
ちなみに、日本の税収がどれくらいか、みなさんはご存知でしょうか。答えは55兆4686億円です(2016年度の一般会計税収)。つまり、日本の税収額の7割以上にも相当するほどの巨費を医療につぎ込んでいるのです。今後もこのペースで医療費が膨張し続けたら、そのうち税収額を軽く突破するかもしれません。世界に冠たる長寿国である日本が、そんな巨費を医療につぎ込んでいるなんて、ちょっと異常だと思いませんか?
膨らみ続ける医療費をまかなうには、自己負担額を上げるか、保険料を上げるか、もっと公費をつぎ込むかしかありません。どの道を選ぶにしろ、自分たちで負担していくしかないのです。フリーの物書きである私自身も、年間にウン十万円もの国民健康保険料を支払っています。保険料をきちんと支払うには、この原稿を何十本も書かねばなりません(苦笑)。必死に働いて稼いだお金を、いとも簡単に吸い上げていく我が国の医療保険のシステムに、正直怒りを感じることさえあります。
だからこそ、医療費を1円もムダに使ってほしくないのです。どの医療行為が無駄かどうかは、医療の専門的知識がないと判断できないことがほとんどです。ですから、患者側の努力だけでは限界があるのは確かでしょう。ですが、医療を利用する側も意識を変えなければ、医療を提供する側の意識は変わっていきません。そこで、医療の無駄を防ぐために、私たちができることを3つ考えてみました。
その1 むやみやたらに検査を受けないようにする
そんなに大した症状もないのに、とにかく安心したいからと、医療機関に行って頻繁に検査を受けている人はいないでしょうか。たしかに、ふだんとは違う痛みやしびれ、めまい、まひ、出血、熱や咳が何日も続く、といった症状がある場合は、すぐに医療機関に行って検査を受けたほうがいいと思います。
しかし、検査をたくさん受けたからと言って、健康で長生きできるわけではありません。以前の記事でも紹介しましたが、欧米では定期的に検査を受ける人と検査を受けない人のどちらが長生きするかを調べた臨床試験がいくつも行われています。それらを総合的に解析した研究によると、定期的に健康診断を受けても長生きにはつながらず、心臓病やがんの死亡率も減少していませんでした(「『健康診断は毎年受けなくてはいけない』はウソだった」)。
検査で詳しく調べれば調べるほど、人の体には「異常」がたくさん見つかります。しかし、「正常」から外れているからと言って、必ずしもすぐに治療が必要なものばかりではないのです。にもかかわらず、異常が見つかるとそれを詳しく調べるために、さらに検査が追加されることがよくあります。その検査だけでも医療費の無駄づかいになりますし、薬などの治療が始まれば、さらにムダな医療費をつかうことになってしまいます。
それによって健康で長生きすればいいのですが、CTなどの検査によって被ばくを重ねることや、薬の副作用によってかえって健康を損ねることもあり得ます。ですから、「検査を受けるのはいいことだ」という思い込みは、医療費の無駄をなくすためにも捨てるべきだと思います。
それよりも気になる症状がある場合には、いきなり大きな病院に検査を受けに行くのではなく、信頼できるかかりつけ医に検査すべきかどうかを相談してみてください。もしすぐに検査が必要な症状なら、かかりつけ医が適切な病院を紹介してくれるはずです。そうではなく、「しばらく様子を見ましょう」と言われたら、医師の指示通りあわてずにいるのも大切なことなのです。