父の時代を「体制不安定」と貶め…
ロシアによるウクライナ侵攻を通じて得た利益や兵器の近代化などが、金正恩氏に自信を植え付けているのは間違いないようだ。北朝鮮指導部は、「金正日国防委員長の時代は『体制不安定の時代』だった」と主張しているという。父である金正日氏の時代を「体制不安定の時代」と貶めており、これは当時の「苦難の行軍」を指しているとみられる。
一方で、「金正恩国務委員長の時代は国家の安定期を象徴している」、「金日成主席の時代は『平和的な時代』を反映していた」と評価しているようだ。主席制の復活は金正恩氏の権威付けに過ぎないのではないか、という国内外からの冷ややかな視線を意識してか、「国政安定期」というスローガンを掲げて理論武装を図っているようだが、どうにも理屈に乏しい印象は否めない。
28年前に廃止された「国家主席」職への野心
北朝鮮の国家主席職は、1972年の最高人民会議で採択された国家元首の地位である。同年から金日成氏が同職に就いていたが、1994年の同氏の死後、国家主席のポストは空席のままとなっていた。1998年の最高人民会議における憲法改正によって主席制は廃止され、同時に金日成氏は「共和国の永遠の主席」として規定された。28年前に廃止された「国家主席」の職に、金正恩氏は「国家の安定期」を大義名分として就任する準備を進めているようだ。
一方、今回の第9回党大会で党中央委員の名簿から除外された崔龍海最高人民会議常任委員長は、健康問題(重度の糖尿病とみられる)などを理由に辞任する見通しだ。後任には、趙甬元労働党組織担当書記が有力視されている。趙氏は、党の最高権力部署である組織指導部の部長や現在の組織担当書記を務めてきた、金正恩政権で最も信頼の厚い幹部の一人である。
前出の情報筋は、「趙甬元氏は2021年から5年間も党の組織担当書記を務めている。同じ職に長く留まることで彼を支持する部下が増え、派閥が形成されることを懸念し、実権に乏しい最高人民会議常任委員長へと実質的に左遷するのではないか」と推測している。金正恩氏は、父(金正日)でさえ憲法を改正して空席にとどめ置いた「共和国の永遠の主席」の座に、間もなく就くことになるのだろうか。

