教室に花吹雪をまいた古文講師

 代ゼミは自前でスター講師を育ててもいる。創業者の高宮行男氏は、予備校講師は学者、役者、芸者、易者(えきしゃ)、医者の五者を兼ね備えるのが理想と言ってはばからなかった。学問の魅力を伝える、舞台で教師役を演じる、生徒の羨望の眼差しをあびる、進路指導の助言や読みができる、鬱屈(うっくつ)した受験生のメンタルをケアするという「五役」である。

写真はイメージ ©maruco/イメージマート

 これらを叶えようとしたのが1980年代にスター講師となった古文の土屋博映(ひろえい)氏である。まさに「芸能界的な磁場」から「独特の熱気とエネルギー」を発散していた。歌って踊って教室をかけまわり、花吹雪まで舞うシーンはメディアに何度もとりあげられた。

 なぜ歌ったのか。居眠りする受講生に「何か歌ってみろ」といったら「先生が歌ったらどうですか」と返され、「じゃあ歌ってみようか、マイクもあるし」——こんなやりとりから始まったという。受講生の手拍子に、勢いに乗って紙吹雪も撒くようになった。

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 難しいことを難しく教えるなんて誰でもできる。難しいことを笑いながら教えよう——浪人の暗いイメージを払拭し、明るく楽しく勉強して合格するのが王道と考えるのが土屋氏である。彼は、受験生を飽きさせないために授業にどんどん最新の話題を盛り込む。情報源はラジオと週刊誌だが、一方で学問の奥深さを伝えようともする。こう話している。

「ほとんど全部の週刊誌に目を通してますし、ラジオはいつも2、3台つけっ放し。それで流行りのコマーシャルなんか、生徒に先に仕入れちゃうんです。〔中略〕奥深さというものをチラッと見せてやると、生徒がドキンとするんですよ。僕は専門の『国語学』をかなり勉強しましたから、そういう意味じゃちょっと自信あるんです。〔中略〕最高級の先生に習った、最高峰を見たという、学者としての基盤、自信があるわけです」(『広告批評』1985年5月号)

 代ゼミ的予備校文化の「独特の熱気とエネルギー」といえば、前出の「金ピカ先生」こと英語担当の佐藤忠志氏、また古文講師の吉野敬介氏がいる。吉野氏はその経歴や出で立ちから「暴走族先生」と呼ばれたが、授業はオーソドックスで人気があった。

授業1回で200万円といわれた(Amazonより)

 代ゼミは個性的なスター講師を生んだ一方で、功成り名遂げた名物講師を他校から引き入れた。逆にライバル予備校へ移籍した講師も少なくない。予備校文化が盛り上がった背景には、予備校講師職が流動的だったことがある。代ゼミからも、多くの予備校文化の“伝道師”が旅立った。自ら築いた予備校文化を布教するために——。

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