「文藝春秋」12月号より、ジャーナリストの小林哲夫氏による「開成OBの研究」を公開します。(全2回の2回目/前編から続く)
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開成と麻布の校風の違い
こうした開成と麻布の校風の違いについて地域性を指摘する向きも多い。前出、岸田の同級生である林が語る。
「開成の校舎は荒川区の西日暮里の駅前にあったためか、下町の家庭に育った子供が多かった。一方の麻布や武蔵中学・高校はどちらかというと新興住宅地で山の手の上品な印象でした。今も昔も生徒は色んな地域から通っているのでしょうが、我々の時代はそういう傾向が強かった」
林や岸田が通っていた当時の開成は、戦前の空気が残っていた。
「元々、ガラが悪いと言ったら変だけど、がさつな感じの雰囲気ですよね。簡単に言うと上品な学校ではない。僕らのころは軍隊上がりのような先生方もいた。叩くわけじゃないけど、鞭とか棒を手にしていた。本当に古い昔の学校というイメージでしたね」(同前)
岸田の4年後輩である、前出の平井知事が付け加える。
「当時はお金がなかったので、窓ガラスが割れても直してくれない。冬場は雪が吹き付けてきたりして、生徒はコートを着ながら授業を受けていたものです。バンカラで自由なのですが、どこか寺子屋的な部分が続いているのかもしれません」
その校風が如実に残っているのが、ボートレースと運動会の二大行事だ。
4月のボートレースは筑波大附属ボート部との対抗戦で、中1と高1が応援に駆り出され、高三から理不尽なまでに怒鳴られる。その洗礼は入学直後から始まるという。
前出・関根が明かす。
「中1の入学したてのとき、昼食時間に高3がいきなり教室に入ってきて怒鳴りまくるわけですよ。『てめえら! 箸を置け! 先輩が話しているときに飯食ってるとは何事だ!』とね。高3が応援練習と称して応援歌や校歌を徹底的にたたき込む。校庭に机を置いて、竹刀をもった高三がその上に立って檄を飛ばす。もちろん殴ったりはしないけど、竹刀で机を叩くみたいなさ。最初は本当ビビっちゃうよ。でもそれで連帯感ができるって感じです」
5月の運動会は、さらに体育会系の色が濃いという。
経済安全保障大臣の小林は、岸田が所信表明演説で発した「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ皆で進め」というフレーズをこう読み解く。
「開成では運動会の準備に1年かけますが、生徒全員がそれぞれの役割をまっとうする。岸田さんのあのフレーズにはチームワークで大きなことをやり遂げようという開成らしさが見てとれます」