文春オンライン

なぜ麻布ではなく開成が“東大クイズ王”伊沢拓司を輩出? 前校長が明かした“違和感”「10年前、東大合格者数では成功していましたが…」

#2

2021/11/24
note

 学生時代、棒倒しに打ち込んだという、まん福ホールディングスの代表取締役社長、CEOの加藤智治(1993年)は岸田首相が唱える「新しい資本主義」に期待を寄せる。

「岸田首相には起業家が活躍できる環境を整備してほしい。社会にイノベーションを起こし新陳代謝につなげることで、新たな雇用が生まれる。新しい企業を作ることは国力の活性化に必要です」

 他にも起業家は、マネックス証券会長の松本大(1982年)、freeeCEOの佐々木大輔(1999年)、キャスターの小川彩佳の前夫として注目された医療ベンチャー「メドレー」取締役の豊田剛一郎(2003年)など、いずれも著名な人物ばかりだ。

ADVERTISEMENT

 前出の岩瀬は、開成人脈が起業の際、大いに役立ったという。

岩瀬大輔氏 ©文藝春秋

「ライフネット生命の創業時、法律面はクラスで一番優秀だった弁護士に頼み、IT分野はパソコンが得意な同級生に相談しました。また開成の大先輩が役員をつとめる金融機関に出資をお願いするなど、卒業生のネットワークに助けられましたね」

「東大クイズ王」の伊沢拓司も輩出

 また近年は、前出の落合や「東大クイズ王」の伊沢拓司(2013年)など、従来の職種の枠にとらわれない異能の人材も輩出している。

 昨年まで9年間校長をつとめた柳沢幸雄(1967年、現在は北鎌倉女子学園長)に尋ねると、学校の体質にも変化が起きていたという。

「校長就任時、すでに東大合格者数日本一を30年続けており、その意味で開成は成功した学校でした。しかし就任して違和感に気付きました。新しい物事を判断しようとするとき教員は前例を調べましょうと言い出す。これでは思考停止につながります。そこで、まず自分たちで判断することを徹底しました」

東京大学の安田講堂 ©iStock.com

 2013年、開成は国際交流・留学生委員会を学内に設置。海外大学に入学を希望する生徒を手厚くサポートする体制がととのった。国内難関大学への進学にこだわらないグローバル化に舵を切ったのだ。

 開成の校長は歴代、同校での教員経験はなく、外部からOBを招聘するのが慣例だ。柳沢は東京大教授、現校長の野水勉(1973年)は名古屋大教授からの転身だ。校内のしがらみをもたないことは、組織が陳腐化せず、新陳代謝を図るために重要だと柳沢は考えている。

 現在の野水校長(2020年就任)も、グローバル化をさらに進めている。本人が説明する。

「この20年間、中国や韓国などアジア諸国、EUの学生に比べて日本の学生の海外留学者数は伸び悩んでいます。これまで以上に日本の若い世代に国際的に活躍してもらわないと日本は世界から立ち遅れてしまう。開成ではハーバード大、ケンブリッジ大やMITなど世界のトップ校への入学希望者をきちんとサポートしていきたいと考えています」

 時代に対応し柔軟に取り組む母校の姿勢から、岸田首相は学ぶことが多いのではないだろうか。

(文中敬称略)

なぜ麻布ではなく開成が“東大クイズ王”伊沢拓司を輩出? 前校長が明かした“違和感”「10年前、東大合格者数では成功していましたが…」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー