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なぜ麻布ではなく開成が“東大クイズ王”伊沢拓司を輩出? 前校長が明かした“違和感”「10年前、東大合格者数では成功していましたが…」

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2021/11/24
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 その運動会のハイライトが棒倒しだ。組ごとに綿密な戦略が練られ、かつては棒がなかなか倒れず夜20時ごろまで競技がつづき、毎年のように骨折者が出ていたという。

 衆議院議員の城内実(1984年)はこう振り返る。

「私には自民党の公認が得られず4年間の浪人生活があり、その期間の支えとなったのが開成で培った精神力です。開成で学んだ一番大事なことは何かと聞かれたら、その答えは棒倒し。以上おしまいです。体力の限界に挑戦しながら、勝つために執念を燃やす。選挙も一緒です。開成でなかったら、挫折して政界から引退したでしょう。そこまで棒倒しで身につけた根性は大きかった」

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 運動会では、中1から高3まで8つの色がついた「組」に分かれ、高3が中1を指導するなど、先輩後輩の間で濃密な人間関係が築かれる。その絆は深く、卒業後も運動会の話題で盛り上がるという。こうした人間関係は、官僚の省庁に対する忠誠心、チームプレーに通じる。

開成は「トップダウンの傾向が強い」

 開成OBの財務省幹部がこんな話を打ち明ける。

「霞が関、特に財務省のような世界は、ボートや運動会における応援練習みたいな不条理を味わった開成卒業生にぴったりなのかもしれない」

 運動会で培われた開成スピリットを重視するのは政治家や官僚だけではない。OBの財界人も口をそろえて効用を語る。

 タカラトミーで副社長を務め、現在、T-entertainment代表取締役の佐藤慶太(1976年)が言う。

「先輩後輩という縦の繋がりもメリハリがついており、最終的には先輩を尊敬するようになりました。中1が高3の指導を受けるのは良い慣習だと思いますね。義理と人情を大切にする学校でした」

 三井住友海上火災保険社長の舩曵真一郎(1979年)が語る。

「運動会などの行事で先輩と後輩の上下関係ができますが、トップダウンの傾向が強いからこそ、逆に先輩が後輩の気持ちを汲み取ることが大切になる。これが岸田総理の聞く力につながったのではないかと想像しています」

「尖ったキャラが多かった」

 実務的で体育会系な校風を背景に多彩な人材を送り出していた開成だが、1980年以降はチャレンジ精神旺盛な人材が目立つ。

 筑波大准教授でメディアアーティストの落合陽一(2006年)もその一人だ。落合自身が学生時代を振り返る。

落合陽一氏

「きちんと授業を聞いた記憶がないですね。のびのび自由な校風で、誰もエリート意識を持っていなかった。みんな頭がいいので、勉強以外で一番になれるのを探す。得意分野で能力を伸ばすことで、尖ったキャラクターをもつ生徒が多かった」

 ライフネット生命創業者の岩瀬大輔(1994年)が、在学当時の校風を語る。

「とびきり優秀な人間が一学年に何十人もおり、知的層の厚みに驚きました。一方で麻雀や競馬に夢中だったり、社会人の彼女がいる同級生もいて、大きな刺激を受けました」