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ラジオが最もやりがいある理由

 森繁久彌さんと、『紅白歌合戦』第1回紅組司会を務めた女優・声優の加藤道子さんによる、『日曜名作座』をひきついで、10年を迎えた西田さんは、ラジオドラマについて、ある思いを持っている。

「僕はいろんな媒体で演じていますが、最も難しいのが役者で、最もやりがいのあるがラジオだと思っています。

 声だけで表現して、リスナーに頭の中で像を描いてもらうわけですから、こちらもいろいろ考えるんです。映像と違って、表情を使えない分、声の質感で勝負しています。テクニックだけじゃなくて、役に対しての気持ちもより必要になってきます」

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『閉店屋五郎』でも、五郎にキツイ説教をする娘の小百合を演じるなど、新日曜名作座で、相方を10年務めている竹下景子さんについては、

「五郎の娘からキャバ嬢、老婆まで見事に演じ分けていらっしゃる。女子大生だったデビュー当時からよーく知っていますが、竹下さんも人生経験をいろいろと積み重ねてきた。

 お互いに、それをすべてラジオドラマに注ぎ込んでいるんだと思います。だからこそ、心のひだに触れてくる演技ができるんでしょうね」

 竹下さんは、もし『閉店屋五郎』が実写化されたら、西田さんのイメージがぴったりだと話しているという。

「いやいや無理ですよ(笑)。五郎はパワフルすぎて、運動量に例えたら、普段の3倍くらいはあった。だから、実写版はしんどいですが、このパワフルな心根だけは、俳優・西田敏行も持ち続けたいと思っています」

『閉店屋五郎』『廃墟ラブ 閉店屋五郎2』(原宏一 著)

西田敏行さんの挫折とは

 原作となった小説『閉店屋五郎』では、原宏一さんが、「たとえ躓いても、もう一度、チャンスはある」という物語を描いている。最後に西田さんに尋ねた。「印象に残っている挫折はありますか」と。

「私の場合、挫折といえるかはわかりませんが、若いころ、テレビにたくさん出るようになって、すこし天狗になるような時があったんです。その時は忙しすぎて、仕事相手の顔をろくに見ていないかった。息をつく暇もないほど仕事をしたんですが、疲労感しか残っていない感じでね。    

 最終話の五郎のセリフで『たまには歩いたり、転んだり、後ずさりしたほうがいいかもな』というのがありますが、まさにそうです。ゆっくり歩もうという気持ちも、大切だと思いますよ」

 日曜日の夜、西田さんと竹下さんが語る「人間ドラマ」を聞けば、新しい一週間のスタートを、少しだけゆっくりと迎えられるかもしれない。

INFORMATION

NHKラジオ第一 新日曜名作座『閉店屋五郎』は、毎週日曜日・19時20分から50分まで好評放送中(『閉店屋五郎』は9月23日が最終話)。 
出演・西田敏行、竹下景子。

原 宏一著『閉店屋五郎』(文春文庫)は、好評発売中。
五郎を演じた西田さんも「読み終わった後に、爽やかな風が吹くような作品」と大絶賛。
第2弾『廃墟ラブ 閉店屋五郎2』は、8月27日発売(文藝春秋刊)。