しかし、1990年をピークに生産量は減り続け、事業所の数も今では当時の3割程度となった。町内には廃業後に使われなくなった工場や工房が点在している。
それでもこの地で陶芸家としての道を進みたい。金澤さんの思いを後押ししたのは、町が行う「移住支援事業」だった。
工房を貸し出し、新たな陶芸家を生み出す仕組み
波佐見町が2015年に始めた「空き工房バンク」。使われなくなった工場や工房を活用する事業だ。
町の人口が減る中で移住者を増やしたい狙いがあり、工房の紹介だけでなく改修や引っ越しの費用を補助するなど手厚くサポートしてくれる。
若手の陶芸家が高額の窯を購入して新たに工房を立ち上げるとなると費用がかさみ、かなりハードルが高い。窯や道具類が残されているのは絶好のチャンスだ。これまでに47軒が登録されていて、現在17軒が活用されている。
空き工房バンクの委託事業者「イクツアルポーク」の福田奈都美さんは「使われないままになった工房跡に若手の作家、起業する人たちが店・カフェにしたいと入ってくれると町が面白くなって観光の幅も広がるのでは」と、町の活性化にも期待を寄せる。
10年ぶりに窯に灯った命の炎
金澤さんが波佐見町への移住を決めたのも、空き工房バンクに窯や道具類が残された工房があったからだった。
金澤さんが借りたのは、10年間使われていなかった工房だ。
工房を以前使っていたのは、陶芸家の松尾道代さん。10年前に大腸がんで亡くなり、それ以来工房は当時の状態のまま、素焼きの作品もそのまま残されていた。
金澤さんが引っ越してから約半年後の2026年2月19日、波佐見町で手がけた作品を初めて窯出しした。窯に火が入ったのは10年ぶりだ。「よくできている。よかったね」。そう声をかけるのは、松尾さんの夫、正道さんだ。
火入れをした2月19日は、道代さんの10回目の命日だった。この偶然に、正道さんは「家内が火を入れている、生き返った感じ」と、顔をほころばせた。








