「田舎の親」も陰謀論に染まり始めた
安田 一部の左翼とカルト宗教とネット右翼って、陰謀論としては同じ箱に入ると思うんです。自分が差別されて困ってます、隣人がブラック企業勤務で死にそうです、子どもが保育園に入れなくて妻のライフプランが崩壊します……、という眼の前の問題より、「世界の真実に目覚めた俺が世界の大問題を救う」みたいな気負いを優先させてしまう。
古谷 みんながエヴァとかガンダムに乗りたがるわけですよね。日常よりも大きな物語に浸かりたがる。
安田 最近は「田舎の親がネトウヨになりまして」みたいな話もよく聞きます。15年くらい前にネットのアーリーアダプターというかオタクが、半分ネタでいじっていた「日本は朝鮮人に支配されている」みたいな陰謀論が、これまでネットとの親和性が薄かったアナログな高齢者層や、地方の地元密着型の社会人層にまで降りてきてるんですよね。
古谷 地方の青年団体や経済団体のメンバーになるような地方の中堅産業の2世・3世や、地方議員もネット右翼思想に染まりやすいですしね。
安田 一部の地方議員のネット右翼ぶりってすごいですよ。でも、愛国心を持つことはよいにしても、例えば私の地元の滋賀県東近江市あたりで「日本のプライド」とか言ってどないするねんと。東近江市の課題って「近江鉄道の運賃が高い」とかそういうのですよ。某国の政府の陰謀とか関係ないですから。
日本のネトウヨと欧州の排外主義は異なるもの
古谷 日本の進歩的文化人の間では、「ネット右翼は欧州のネオナチや排外主義に似ている」という言説をよく見るんですが、僕はまったく違うと思うんです。なぜなら、欧州の排外主義の主張は、半分は「本当」なんですよ。実際に政府の容認のもとで中東や北アフリカの難民が来ているし、それによって治安が悪化している。テロも起っている。それに移民が単純労働の職を奪っているという事実が存在する。欧州の排外主義は、その主張への評価はさておいても、根拠となる「実害」は存在している。
安田 実際、パリとか行っても、そういう社会問題の存在は感じます。地に足の付いた問題として、生活上の反発が生まれるのは理解できますね。支持するかはともかく。
古谷 ところが、日本には移民に職を奪われた人はいない。隣人に中国や韓国やイスラーム教徒が引っ越してきて、犯罪をやっているのかというとそういう事実は無い。むしろ現在の失業率は皆雇用に近い。日本の排外主義やネット右翼と、欧州のそれを同一視するときの決定的問題点はここですよ。欧州は実害があるが、日本は妄想と陰謀。両者はまったく違うものなんです。
安田 そうですね。実は最近の日本の外国人犯罪の検挙件数の1位ってベトナム人で、中国人は2位。韓国人になると、ブラジル人よりも下の4位です。ネット右翼の排外主義が中国人と韓国人だけに向けられるのは、「実害」とは無関係と言っていい。
古谷 観念上の陰謀論なんですよね。いつの間にかその存在を立証できなくなり消えていった「在日特権」なるかけ声と同じです。