ネット右翼研究の第一人者たる古谷経衡さん。最新作『愛国奴』では、小説の形で「保守ムラ」の言論人やそのフォロワーである「ネット右翼」たちの世界の裏側を暴露したことで特定の界隈を震撼させている。
一方、本サイトの人気寄稿者、安田峰俊さんの新刊『八九六四』は、天安門事件活動家たちの「その後」を精力的に取材した労作である。
ともに1982年生まれの安田さんと古谷さん。じつは、在学中の面識はないものの同じ立命館大学文学部史学科卒なのだ(入学年は安田氏が1年早い)。
二人の新刊を出発点として、日本における最新の愛国事情について対談をしてもらった。
◆◆◆
みんな天安門事件にそんなに興味があったの?
古谷 『八九六四』は、1989年に中国で起きた六四天安門事件にかかわった二十数人の市井の中国人や活動家の取材記でした。ただ、天安門事件って、個人的には知っているようで知らないんですよね。
安田 世代によりますよね。いまの40代以上の人はリアルタイムの記憶なので、衝撃的だったみたいですが。僕ら(1982年生まれ)だと事件当時小学校1〜2年ですから、ほとんど覚えていない。さいわい『八九六四』は版を重ねているのですが、著者の僕自身が「みんな天安門事件にそんなに興味があったの? なんで?」みたいな気持ちです。
古谷 むしろ文化大革命のほうが、文学や映像作品を通じてよく知っている感もある。例えば僕だと、矢作俊彦原作の大友克洋のマンガ『気分はもう戦争』とか、映画の『ラストエンペラー』のラストシーンとか。庭師になった溥儀が文革に巻き込まれて終わるやつです。村上龍の『69』にも、主人公のヤザキが佐世保北校をバリケード封鎖するときに「造反有理」って落書きをする。逆に天安門を舞台にした有名なマンガや映画ってありますか?
安田 あんまりないですね。アメリカのドキュメンタリー映画の『天安門』と、ロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』というやたらにエッチな描写が多い映画ぐらいです。日本文学では、芥川賞を受賞された楊逸さんの『時が滲む朝』がありますが、映画化は難しいだろうなあ……。
古谷 なので、僕は天安門事件というのは「なんかベルリンの壁崩壊のアジア版で、失敗したやつでしょ?」ぐらいの認識だった。『八九六四』はその認識が変わる、いい入門書でもあったんですよ。どういう動機で書いたんですか?
安田 僕はノンポリで、政治的なイデオロギーも宗教心も薄いんですが、「運動」を見るのは好きなんです。例えば昔の赤軍派やオウムも、いまのネット右翼(ネトウヨ)もそのカウンター勢も、ある意味で「好き」である。いっぱい人がワアッと集まって、何かの方向にワアッと動くものをウォッチすることに興味があるわけです。で、中国で一番でっかいその手の運動といったら、天安門事件だよねという理由でした。