同じモチーフの『サイコ』と決定的に異なる点
墓場から盗掘した死体を素材に手工芸品を作っていたことで知られる、50年代アメリカの猟奇犯エド・ゲインを等しくモチーフとしつつも、ヒッチコックの『サイコ』(60年)と『悪魔のいけにえ』が決定的に異なる理由もここにある。『サイコ』の殺人鬼ノーマン・ベイツの他者性が家庭環境と個人の資質に還元されるのに対し、『悪魔のいけにえ』の殺人一家はアメリカ裏面史を背負っているため、『サイコ』のエンディングで語られるような精神分析的な解釈を受け付けない。このことは抒情的な表現を徹底的に排した『悪魔のいけにえ』固有の即物性とも関連があるが、『悪魔のいけにえ』の殺人一家は、どこまでも即物的でありながら、あまりの他者性の高さゆえ、一種の「究極の他者」表象として『サイコ』を遥かに超える普遍性を獲得してしまった。こうして『悪魔のいけにえ』は現代アートが探求する領域をも侵犯したのである。
『悪魔のいけにえ』がMoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久コレクションに加えられたのは、映画のキュレーション担当のエドリエンヌ・マンシアとローレンス・カーディッシュの慧眼による。実験映画からポルノに至る数々の周縁的な作品を、カテゴリーにとらわれずに積極的に評価してきた彼らが『悪魔のいけにえ』をアートとして正当に評価したことの重要性は21世紀の現在、いや増すばかりなのである。
たかはし・よしき 1969年、東京都生まれ。広告会社勤務を経て、アートディレクター、ライター、映画監督など幅広いジャンルで活動。2022年には『激怒』で初めて長編映画の監督を務めた。YouTubeチャンネル『BLACKHOLE』は6月に開設6年目を迎える。
INTRODUCTION
1974年に公開されて以来、ホラー映画の金字塔として語り継がれている『悪魔のいけにえ』(原題:The Texas Chain Saw Massacre)は、今年1月に公開50周年を記念して4Kデジタルリマスター版が上映され改めて脚光を浴びるなど、いまなお世界を侵食し続けている。今作『チェイン・リアクションズ』では、第一線で活躍する5人の表現者が、自らの原点となった『悪魔のいけにえ』の恐怖と、その計り知れない影響を証言。極限まで削ぎ落とされた、荒削りなインディペンデント映画がいかにして世界的神話となり、半世紀を超えて連鎖反応《チェイン・リアクションズ》を引き起こし続けているのか─その核心に迫る。
STORY
2024年のヴェネツィア映画祭クラシック部門で上映され、ドキュメンタリー最優秀賞を受賞した今作の最初の語り部はコメディアンにして俳優のパットン・オズワルト。次いで映画監督の三池崇史、オーストラリアの映画評論家アレクサンドラ・ヘラー゠ニコラス、作家のスティーヴン・キング、映画監督のカリン・クサマが登場。それぞれが個人的な“衝撃”を語る。
STAFF & CAST
監督:アレクサンドル・O・フィリップ/出演:スティーヴン・キング、三池崇史、アレクサンドラ・ヘラー゠ニコラス、パットン・オズワルト、カリン・クサマ/2024年/アメリカ/102分/配給:エクストリームフィルム/©2024 QBPIX LLC
