原作はイギリスの作家マックス・ポーターによるベストセラー小説『Grief Is The Thing with Feathers』。ノーベル賞作家のハン・ガンも絶賛した作品で、日本でも今年の2月に早川書房から『悲しみは羽根をまとって』という邦題で発売されている。
映画はベネディクト・カンバーバッチが主演とプロデューサーを務めている。
妻の死後に現れた「カラス男」の正体
作品全体を覆うのは喪失による非常に侘しい空気だ。仲睦まじい家族に、最愛の妻であり愛しい母の急な死が襲う。突然取り残された幼い息子たちとコミックアーティストの男。妻の死はほんの些細な日常すらも崩壊させる。たとえば息子の体操着ですら、男親にはどこに畳んでしまわれているのか見当がつかない。自宅を作業場にしていても、いまだに家事は女性がやるものという習慣があるため、父と子は妻や母のいない生活で、朝から躓いてばかりだ。
それに家庭において太陽のようであった母が姿を消したせいか、ロンドンは連日雨が降りしきっている。
この父親がコミックアーティストとして、また個人的にも惹かれてメインで描き続けているモチーフは「カラス」だ。そして妻の死後には男の描いていた「カラス男」が実体となって家の中に現れるようになる。
遺された親子三人の“変化”
男が夜のしじまにペンを走らせていると、不気味な雄叫びとともに、不意に徘徊し始めるカラス男。だが最初こそ子どもたちもカラス男に怯えるものの、少しずつ会話をするようになっていく。カラス男の発言は常に皮肉めいている。
いつしかカラス男は親子にとっての対話者となり、導き手ともなり、大きな翼で父と二人の息子たちに覆いかぶさる存在となっていく。
遺された親子三人にとって、妻・母親の不在はあらゆることを変えていく。ほんの些細なことが――自分自身までもが以前とは違って感じられる。息子たちは戸惑いが隠し切れず、学校で喧嘩をしたり、おねしょを再発したりと、危うい脆さや自己破壊へのよろめきの線上を歩いているようだ。


