カラス男は「善/悪」どちらだったのか
カラス男の出現以降、彼らの住む屋敷の内外を次々と幻覚的な存在が襲う。だがその正体を、善/悪どちらなのか見抜くことは難しい。
通常であればカラスは死の象徴。本作でもいわば隠喩として浮かび上がるのだが、それぞれが断片的で、明瞭なつながりを持たず、不思議なことに、震えあがるような恐ろしいイメージは、さほどまとっていないように感じられてくる。そして観る側は、いつしか物語が決して暗い方向に向かっていないことに気づく。
そもそもカラスは仲間で協力し合って、子どもや信頼の置ける存在を守ろうとする生きものだ。この映画は漆黒のカラスの翼に覆われて、悲哀のどん底からほんの少しでも飛び立っていこうとする父と子たちによる、家族の再生の物語なのだ。
まな・やえこ 愛知県生まれ。映画評論家。『朝日新聞』『キネマ旬報』『ぴあ』などに執筆、次世代の映画評論家として注目されている。著書に『心の壊し方日記』(左右社)など。
INTRODUCTION
イギリス人作家マックス・ポーターの『悲しみは羽根をまとって』の映画化で、昨年のサンダンス映画祭・ベルリン国際映画祭でも大きな注目を集めたファンタジー・スリラーである。プロデュースも担ったベネディクト・カンバーバッチが、妻の死後に遺された息子たちと生きる父親を、リアリティたっぷりに演じ、高い評価を受けている。
STORY
妻を突然喪ったコミックアーティスト(ベネディクト・カンバーバッチ)は、耐えがたい悲しみと向き合いながら、父として幼いふたりの息子(リチャード・ボクソール、ヘンリー・ボクソール)とともに生きようと奔走していた。そんなある日、父のもとに1本の電話が入る。電話の声は「彼女は逝ったが、私はいる」と告げる。その日から正体不明の男が父につきまとい、ついには「カラス」となって彼の前に姿を現す。それはかつて彼がコミックに描いた生物にそっくりだった。これは現実なのか、幻なのか……。
STAFF & CAST
監督・脚本:ディラン・サザーン/出演:ベネディクト・カンバーバッチ、リチャード・ボクソール、ヘンリー・ボクソール/2025年/イギリス/98分/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム/©THE THING WITH FEATHERS LTD / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2025 ALL RIGHTS RESERVED.
