「ご遺体を入れ忘れていない?」――元火葬場職員の下駄華緒さんは、棺を持ち上げた瞬間の軽さにそう疑ったという。火葬場で働き始めて間もない頃、担当したのは自ら火をつけ命を絶った10代の少女だった。

 その遺体は「肉がほとんど残ってない」ほど損傷が激しく、ほぼ「骨と皮だけ」の状態だった。そして、棺の軽さで娘の変わり果てた姿を悟ったであろう父親の表情を、今も忘れられないと語る。

 火葬場の現場で突きつけられる“正解のない判断”とはどのようなものか。下駄さんの著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』第5巻の発売を機に、その壮絶な経験について話を聞いた。

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 下駄華緒さん ©細田忠/文藝春秋

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「お肉がほとんど残っていなくて…」焼身自死した10代の女性を火葬

 下駄さんが火葬場で働き出して間もない頃に担当した、ある自死の火葬。参列者は父親と母親の2人だけだった。亡くなったのは10代の若い女の子であった。

 当時まだ20代だった下駄さんにとって「死」は遠い存在であり、目の前で起きていることをすぐには理解できなかったという。悲しむ遺族を前にしても、自分の感情が分からず、ただ呆然としていたと振り返る。

 少女の遺体は、焼死の中でも特に損傷が激しい状態だった。下駄さんは「本当にほぼほぼ真っ黒というか。お肉がほとんど残っていなくて、骨に薄くて黒い皮が張ってあるような状態です」と語る。

 顔の一部に肌の質感が残っているものの、一見して人間かどうかも分からないほどであった。このような状態でも、骨にするためには1000℃もの高火力で火葬する必要がある。

 下駄さんは「火に巻かれて亡くなったのに、火葬でまた熱い思いをさせてしまうのか」と複雑な気持ちを抱いたという。

 

「ご遺体を入れ忘れていない?」棺の軽さに気づいた父親の表情

 葬儀場から運ばれてきた少女の棺は、下駄さんが「え、ご遺体を入れ忘れていない?」と思うほど軽かった。肉と水分がかなり少なくなっていたためである。

 その後、父親から「私にも一緒に持たせてくれませんか」と申し出があった。遺族の希望があれば「お力添え」という形で、職員と一緒に棺を持つことがあるのだ。

 棺を持った瞬間、そのあまりの軽さに気づいた父親の表情を、下駄さんは今も忘れられないという。

 警察や葬儀社は、損傷が激しい遺体を遺族に見せないよう配慮することがある。おそらく父親は娘の亡くなった後の姿を直接見ておらず、棺の軽さではじめてその状態を知ったのではないか、と下駄さんは推測する。この対応が遺族にとって正解だったのか、今でも分からないと語る。

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 以下のリンクから、火葬場の実態を描いたマンガ『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』のエピソードをお読みいただけます。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】

▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

INFORMATION

「火葬場を覗く展」開催のお知らせ

火葬場の知られざる現場を紹介する展示イベント「火葬場を覗く展」が、3月21日(土)から29日(日)まで開催される。元火葬場職員・下駄華緒さんによる展示や解説を通して、普段は知ることのできない火葬場の仕事や実態を知ることができる。

【開催概要】
開催日:2026年3月21日(土)〜3月29日(日)
時間:10:00〜18:00(最終入場17:30)
会場:文春ギャラリー紀尾井町
〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-23

予約ページ
https://livepocket.jp/e/weahf

公式HP
https://www.kasouba-nozoku.com

ショートCM
https://youtube.com/shorts/nnGHxvjKjRg?si=yLJisalM-EhsN3hA

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