仕事上のアイデンティティを守るためのペーパー離婚

井田 お二人の話、どちらも身につまされます。私は今、選択的夫婦別姓の実現に向けて活動していますが、私自身の経歴もなかなかの「理不尽フルコース」なんです。初婚は19歳、大学1年で出産し、周囲からは「本家長男の嫁になるんだから変えるのは当然だ」と押し切られた。その後、離婚しましたが、すでにその名字で20年近くキャリアを積んでいたため、不本意ながら元夫の名字を使い続ける「婚氏続称」を選ばざるを得ませんでした。

 再婚後は事実婚を続けていましたが、夫の急病の際に病院から「本当のご家族(法的な親族)を呼んでください」と説明を拒否され、泣く泣く法律婚を選びました。その後、仕事上の名前を守るために一度籍を入れてからペーパー離婚をして名字を戻す……なんていう作業を繰り返してきた。名義変更は100項目を超え、「自分で穴を掘って、自分で自分を埋めている」ような虚無感に襲われていました。

 でもそうやって自分の名前に固執するのは、わがままでもなんでもなくて尊厳そのものですよね。テニスプレーヤーの伊達公子さんはドイツ人男性との結婚時、国際結婚なので変える必要はなかったのに、なんとなく変えるものだという思い込みからクルムに改姓された。でも、いざ国際試合に出ると、世界中のファンがDATEとして彼女を認識していた。それに気づいた彼女は、家庭裁判所に駆け込んで名前を取り戻したんです。

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井田奈穂さんも当事者からの問題提起を執筆する『選択的夫婦別姓は、なぜ実現しないのか? 日本のジェンダー平等と政治』(花伝社)は、日々の生活のことから政治まで横断的に。「週刊文春」の「読書日記」での橋本愛さんによる書評も話題に

「離婚する女性はわがまま」「改正手続きは罰」という社会の空気

鳥飼  私がもうひとつ改姓で腹立たしかったのは、区役所の対応や社会の空気から感じた「あなたは2回も離婚しているからこんな目に遭うんだ」という罰を与えられているような感覚でした。「真っ当な結婚を一度だけして、夫の家に入る女」なら通らなくていい苦労を、お前はわがままだから味わっているんだ、と。初婚しか想定されていない制度ですよね。

鈴木 それ、日本の陰湿な処女信仰に近いですよね。女が自分の意思で別れて新しい人と一緒になろうとすることを、社会が歓迎していない。ルールが変だと言っているだけなのに、「わがままだ」「正規のルートを守れないのか」と叩かれる。

 選択的夫婦別姓なんて「選択的」で誰にも迷惑をかけないはずなのに、意思があるのが許せない人がいる。反対派が言う「家族の絆」なんて、名字がバラバラだと壊れる程度の自信しかない家族観こそ、よっぽど危ういのではないかと思います。

井田 私はロビー活動で国会議員の方々と話しますが、彼らの反対理由は驚くほど前時代的です。「家族は心も体も一つであるべきだ」とか「女性は三歩下がって歩くことで守られる」とか。明治時代の観念を令和になっても押し付けている。でも、実際には選択的夫婦別姓を支持する層は20~30代で9割に達しています。この乖離は、もはや理不尽という言葉では足りないほどです。

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『今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった』を語る夜」

男女が真に平和に共に生きていくためには、選択的夫婦別姓制度など結婚制度のアップデートが必要だと考える鳥飼さん。そして名字変更の社会的コストや、制度と個人の自由のバランスなど、冷静でロジカルな視点からこのテーマを見つめる大島さん。フィクション・エンタメの考察も交え、結婚の理不尽から理想のパートナーシップまで、とことん語り合う一夜です


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次の記事に続く 「名字を変える」のは入り口に過ぎなかった!?  いまも結婚に潜む「嫁役割」の呪縛と私の尊厳を守るための生存戦略