平和な結婚を守るための生存戦略 ペーパー離婚、事実婚、リーガルマリッジ?

鳥飼 私は今のパートナーの両親も大好きですが、だからこそ、私は彼らの娘にはなりたくなかった。相手の名字に変えて、その家系に組み込まれた瞬間、もうこれまでの仲良しでピュアな関係ではいられなくなる。だから 私が3度目の結婚で選んだのは、お互いのルーツに縛られない第三の名字を新しく作るという、一種の制度のハックでした。

 結局、私がこの本で書きたかったのは、結婚生活の中に平和をどう築くかということですね。どちらかが犠牲になったり、言いたいことを飲み込んだりする関係は、すぐに戦場に変わってしまう。何があっても、ちゃんと思ったことを言葉にし続けられる相手と泥臭く対話を続けることが大事だなと思います。

井田 そのためにも名字の問題は大事ですよね。男性の側も、実は悩んでいる。今日は会場の男性から「相手から名字を変えてほしいと言われているが、自分の尊厳も守りたい」という質問がありましたが、これは納得いくまで話し合うしかありません。親の言い分や慣習なんかを理由にせず、納得いくまで二人で話し合ってほしい。どちらかが尊厳を削られたままでは、結婚はただの忍耐の場になってしまいますから。

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 井田奈穂さん

鈴木 私は正直に言えば、事実婚にすればよかったなと思っているんです。夫はモラハラ気質や威張ったところがないぶん、のんびりした人で、社会生活に必要な知識や経済力はかなり少なめです。子育ても、一緒に遊ぶのは大好きだけど教育や生活を整えることは興味がなさそうで偏っています。だから、彼の方には法律婚をする理由やメリットが多少あったかもしれない。でも私は自分の名前や尊厳を削ってまで籍を入れる必然性があったのかはよくわかりません。単純に子育ての手という意味では必ずしも法律婚でなくてもよかったかもしれない。とはいえ子供の親同士が法律婚をしているという前提、なおかつ苗字が全員同じという前提でまわっている社会では法律婚の利便性が高いのも事実で、今からそれを解消するガッツがあるかというと微妙。

 今の私は、どこかで夫を養ってやってるのにという傲慢な気持ちと、「いい嫁」を演じてしまう自分への嫌悪感に引き裂かれている。昭和のオヤジ的思考と女々しい思考を行ったり来たりしていて、少し疲れました。

鳥飼 自分らしく生きるには、必ず面倒くささがともないますよね。井田さんのように尊厳を守るためにペーパー離婚をするのもそうですし、事実婚を選ぶこともそう。法律婚のほうが守られることが多いので、どちらの選択にも私は尊敬の気持ちしかありません。自分たちの選択を親世代にわかってもらうには説明を続けなければいけないかもしれないし、わかってもらえないかもしれない。

井田 私たちは今、選択的夫婦別姓の法改正を待つだけでなく、海外の法律を使って別姓のまま結婚する「リーガルマリッジ」という選択肢も提示しています。例えばハワイやニューヨークなど海外で挙式をあげると現地の役場に婚姻記録が残るんですね。すると他国の法律に基づいて自分の名前を変えずに結婚証明書をもらうことができるので、法的に夫婦と認められるわけです。これをもって帰国後、日本の戸籍に反映されるわけではないんだけれども、この結婚証明書があれば相続もできるし、親権も持てる。これは、日本の硬直したシステムに対する一つのお守りであり、抵抗の形でもあります。

海外挙式における結婚証明書 ©Unsplash

鳥飼 そんなやり方があるんですね!  私は幸運にも抜け穴的な方法で、3人目のパートナーとは納得できる法律婚の形を選ぶことができましたが、平和な結婚の実現のためには選択的夫婦別姓をはじめとする結婚制度のアップデートがなされてほしい。そして自分の尊厳も相手の尊厳もすり減らさないために、相手がこれまでどんな理不尽と戦ってきたのかを想像して、平和な関係を築くための対話を、どうか諦めないでほしいなと思います。

【告知⓵】 鳥飼茜×荘子it @コトゴトブックス

「作者から預かった本を特別特典とともに贈る」がコンセプトのコトゴトブックスさんで、『今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった』を刊行された漫画家・鳥飼茜さんとラッパー・荘子itさんの対談が決定!

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が単品でも組み合わせでも購入可能。事前申し込み〆切は4/6、配信は4月下旬予定。改姓に翻弄されながらも3度目の法律婚を選ばれた鳥飼さん、妻の姓を選んだ荘子itさんの異色対談。詳細は下記の通り。

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【告知②】4/27 (月)19時~鳥飼茜×大島育宙トークイベント@青山ブックセンター本店
「結婚。それは祝祭か、墓場か。
『今世紀最大の理不尽 それでも、結婚がしたかった』を語る夜」

男女が真に平和に共に生きていくためには、選択的夫婦別姓制度など結婚制度のアップデートが必要だと考える鳥飼さん。そして名字変更の社会的コストや、制度と個人の自由のバランスなど、冷静でロジカルな視点からこのテーマを見つめる大島さん。フィクション・エンタメの考察も交え、結婚の理不尽から理想のパートナーシップまで、とことん語り合う一夜です


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最初から記事を読む 結婚にまつわる「今世紀最大の理不尽」をぶっ壊せ!  姓を失って初めてわかったこと、私たちが守りたいアイデンティティ