運転士の高齢化を自動運転でカバー
谷島社長は今後のバス事業の行方をこう予測する。
「自動運転、電気バス、AI(人工知能)。この3つの潮流が100年変わらなかったバス事業に初めての革新をもたらします。とはいえ、問題を何もかも解決するというわけではありません。自動運転はあくまでも運転士をサポートする役割で使います。道路運送法では運転士やバス事業会社に対するいろいろな義務や規則があり、自動運転の技術が向上しても法律は簡単には変わりません。
運転士の高齢化が進むと、視力の低下や反応の衰えが問題になるので、自動運転でカバーできれば役立ちます。あるいは、運転士の体調の変化などを感知して警告したり、自動でブレーキをかけることもできるでしょう」
電気バス化は避けられない
電気バスについて、谷島社長は環境問題とともに、バス事業会社の収支改善につながるという。というのも、バス事業の原価に占める割合で、燃料費は平均7~10%(2013~16年)だ。一方、路線バス事業会社の経常収支率は地方で87.4%、平均で96.5%(2016年度)であり、燃料費がなくなれば、平均では3.5~6.5%黒字が増えることになる。
「もちろん、バッテリー費用などがどうなるかはまだわかりませんが、車両が電気化されれば間違いなく部品点数が減って、価格も安くなるでしょう。ガソリン車をなくすことは経済的には打撃でしょうが、世界の潮流は電気化だし、中国などは電気バスが当たり前になっています」
ビッグデータとAIで仮説を立てる
AIでは、ビッグデータの活用がカギを握ると谷島社長は語る。
「当社のバスで団地と駅の間を走らせている路線があります。当然ながら、朝は団地から駅に乗客が動き、夕方や夜は駅から団地に向かいますね。ところが、ある日以降、夕方になると、団地から駅へ向かう利用者が増えたのです。理由がわからないので、担当運転士に聞いてみると、駅前にいい居酒屋ができたというのです。聞いてみなければわからないものですね。狭い地域なら運転士などに聞けば理由がわかるが、これが広域になると見えなくなる。ビッグデータをAIによって分析すれば仮説を立てやすくなると思うのです」
イーグルバスでは運行データの見える化を行っているので、小さな乗客の動きまでわかるわけだ。この小さなデータを積み上げてビッグデータとしてAIを活用すれば、地域全体の傾向が見えて、運行スケジュールや台数などの適正化が可能となるだろう。
「ただしビッグデータやAIを使っても、数字を扱うのは人間であることを忘れてはいけません。人次第で意味の解釈は違ってきます。単に利用者が少ないから無駄と判断はできません。その裏側には交通弱者の高齢者がいて、毎日必要としているかもしれない。主役は人間で、AIが人間を補佐することが重要です」
谷島社長は、データに振り回されるなと警告する。業界に先駆けて運行の見える化を進めてきた人物だけに、その言葉には説得力がある。
バス問題を解決できるのは住民
赤字路線バス問題はバス事業会社自らの改善努力が第一であることは間違いないが、それだけでは解決しない。地域と住民(利用者)と行政も一体となって人の移動という観点から町づくりを考えなければならない。
「私たちが、これまでときがわ町や東秩父村で改善活動ができたのも、町長や村長など首長たちが考え方のぶれない人だったからです。もちろん、地域の中には反対もありましたが、それを説得できるのは首長です。
路線バス問題を解決するために私たちのやり方が全て通用するとは思っていませんが、少なくとも首長と行政側のリーダー、議会、そして住民の結束が必要でしょう。最終的に問題を動かすのは住民です」
谷島社長が言うように、路線バス問題を解決に向けて動かすには、やはり住民の力が必要のようだ。