地方の路線バスが危機に瀕している。大都市以外の路線バス事業会社の経常収支率は87%と赤字経営だ。川越に本社を置くイーグルバスの谷島賢(まさる)社長は、廃止がいったん決まった3路線を引き受け、運行データの見える化と徹底した顧客視線で黒字化に成功した。谷島社長に路線バス事業の行方を聞いた。(全3回の3回目/#1、#2より続く)
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免許返納などで増える交通弱者
「路線バス事業で最大の問題は運転士不足です。運転士がどんどん高齢化し、一方で運転士になる若い人が減っているので、運行させられるバスの台数は限られる。となると、当然ながら赤字路線を削っていくことになります。赤字路線を削れば、バス事業会社は体質改善につながりますが、一方で交通弱者が増えるので、社会問題になりつつあります」
埼玉県川越市に本社を置き、送迎・路線・観光バス事業を営むイーグルバス(売上12億5000万円、従業員220名)の谷島賢(まさる)社長は、こう語る。
警察庁の「運転免許統計」(平成27年版)によれば、運転免許証を自主返納した人が身分証明代わりに受け取ることのできる運転経歴証明書の交付件数は2015年が23万6586件と10年前に比べて15倍になった。
また、75歳以上のドライバーは免許更新時に認知機能検査を受ける必要があるが、2017年において、「認知症の恐れ」および「認知機能低下の恐れ」と判定された人は全体の3割におよんでいる。今後も免許証の返納は増大し、自動車を運転できなくなって交通弱者に陥る人は増える一方だ。
バスのビジネスモデルは100年以上変わっていない
「日本におけるバス事業は1903年に京都で始まったと言われています。1951年には道路運送法が施行され、免許制度になりました。2002年に規制緩和によって許可制となり、路線バスへの参入や撤退が自由になりました。半世紀ぶりに開放されたわけですが、実はビジネスモデルは100年以上変わっていないのです」と谷島社長。
モデルを変えられないまま、路線バスの利用者は1968年の101億人をピークに2013年は41億人と半減した(日本バス協会調べ)。
路線バスはそもそも赤字になりやすい事業構造だ。乗客が乗らなくても定時運行する義務があり、コストは固定化している。行政の補助によって採算を取っているが、補助金は運送収入とコストの差額を補填する制度なので、頑張ってコストを下げても収入を増やしてもその分、補助金が減額されるので、努力のモチベーションが上がらない仕組みになっている。
こうした状況でも、谷島社長はいったん廃止が決まったバス3路線を引き継ぎ、赤外線センサーやGPSなどの機器を活用して運行データを集め、運行の適正化を図るとともに、利用者のニーズを聞き出し、乗客数を年間6万人ずつ増やすことで、黒字化を達成した。