垣根 せっかくの機会なので、もう少しいろいろと普段聞けないことを聞いてみてもいいですか?

池井戸 僕に聞いてみたいこと? 何でしょう。

垣根 池井戸さんは、「みんな知ってはいるけど、よく分からないお金の話」みたいな新書やビジネス書は書かないんですか? 例えば、銀行の信用創造ってあるじゃないですか。銀行が預金と貸し出しを連鎖的に繰り返すことで、お金が増えていくって話ですが。それって銀行が通帳にゼロをいっぱい書くだけで、実際にお金がないのにお金があることになっちゃうとか、理屈は分かっても、なんか気持ち悪くてモヤモヤする。

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池井戸 それをノンフィクションとして? だったら書かない。

垣根 それはなんでですか?

池井戸 他に書く人が居るので。他の人でも書ける内容のものを僕が書く意味ってないじゃない。作家で一番大事なのはやっぱりオリジナリティだし。僕がそれを書くとしたら小説にする。

垣根 やっぱりそうですか。

池井戸 例えば、銭関係の探偵、《ゼニ探》みたいなキャラクターを作って、そのキャラクターが信用創造みたいなお金周りの謎を解いていく短編集にする。読むと面白おかしくその仕組みが分かるみたいな。そういうものだったら僕が書く意味があると思うんですけど。

比叡山延暦寺 根本中堂の石碑 ©アフロ

貨幣経済の仕組みが最も発達していた「応仁の乱」直前

垣根 僕がそもそもなんでこの話をしたかというと、実は、経済に興味を持ち始めたのが、『室町無頼』という作品を書こうと思って中世の資料を見ていたときなんですね。資料を読むと、官寺の比叡山延暦寺が資産運用として金貸しをして、庶民を泣かせてたんだと知った。これまで哲学書とか思想書は結構読んできたけれども、それだけを知っていたとしても、世の中のほんの片面しか見てなかったんだなってことにすごいショックを受けたんです。そのショックが『室町無頼』に繋がった。そこから、お金って何だろうってすごく考えるようになったんですよ。それまで、お金なんて全然興味がなかったのに、お金って動かさないと腐るんだということも分かった。さらに調べていくと、明治以前で、最も貨幣経済の仕組みが発達していたのが、実は《応仁の乱》の直前だった。さっきの比叡山の話と合わせて、これは書く意味があるな、と思いましたね。

池井戸 そういう観点から書いているとは全く思っていなかった。確かに『室町無頼』でお寺がお金を貸していたという話は「へえ」と思って関心を持って読んだおぼえがあるけど。あのエピソードが根っこにあって、そこから膨らんだ話だったんだ。

極楽征夷大将軍 上 (文春文庫)

垣根 涼介

文藝春秋

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次の記事に続く 「ウォール街のプロが厳選したヘッジファンドは、長期的には何の変哲もないインデックスファンドに負けてしまう。僕には足利尊氏の人生がインデックスファンドに重なって見えた」