ニューヨーク・グリニッチヴィレッジの名門コメディクラブ「コメディ・セラー」。そのオープンマイクの夜に、ひとりの中年男がふらりと店に入ってくる。離婚危機の渦中で心は荒れ、どこかハイになった彼は、爆発寸前の圧力釜のようだ。スタンダップコメディの経験はゼロ。しかしスポットライトの下に立った瞬間、彼は孤独や哀しみを自虐ネタのジョークへと変換し、観客を自然と笑わせてしまう。荒削りながらも、確かな才能がそこにはあった。
この男アレックスを演じるのは多才なコメディアン、ウィル・アーネット。彼の妻テス役をローラ・ダーンが演じ、二人の確かな演技が作品を支える。
実話をベースにした等身大ドラマ
監督は人気俳優でもあるブラッドリー・クーパー。レディー・ガガ主演の『アリー/スター誕生』、クーパー自身が指揮者のバーンスタインを熱演した『マエストロ:その音楽と愛と』という音楽系映画で高い評価を得た彼にとって、今回は趣向を変えた監督第3作。“表現と人生”の相関という主題は過去作から連続しながらも、グッと等身大のドラマになった。
物語はアーネットの友人であるイギリスのコメディアン、ジョン・ビショップの実話が着想源。彼の私的な体験談を、クーパーは舞台をマンチェスターからニューヨークへと移し替え、独創的な物語へと昇華させた。
アレックスとテスは結婚20年を経て二人の息子にも恵まれた夫婦。しかし現在、抑え込んできた夢や欲求が結婚生活を揺らし始める。バレーボールの元オリンピック選手だったテスは、自分が犠牲にしてきたものに気づき別居を決断。失意のアレックスは立ち寄ったクラブで舞台に立ち、夫婦の赤裸々な関係を笑いに変えることで、新たな生きがいを見いだしていく。以降、ステージでのパフォーマンスは彼にとって、鬱屈した思いを吐き出す“セラピー”となっていく。

