帰宅したら、玄関でクマが眠っていた

 1996年5月24日、私が帰宅すると玄関の引き戸が30センチメートルほど開いている。朝に締め忘れたかなと思いつつ戸を左に開けると、機材置き場になっている玄関の奥の暗がりに黒いものが溶け込んでいる。40キログラムほどのクマが前のめりに眠っていて動かないのだ。

 ここで暴れて機材を壊されては困る。穏やかに出て行ってもらおうと「おいっ」と声を投げかけると、クマは前の板壁に鼻を打ち、ふぉっと噴いて瞬転し私の脇腹をかすって逃げた。口には耐刃長靴をくわえていた。それを持っていかれては仕事で困るので、「置いてけー」とサンダルを投げつけるとクマの尻に当たって靴を放した。

著者の家に入ってきたクマ

 なんで靴なんかと思って見ると、中からドッグフードの粒が1リットルほども出てきた。ネズミが冬用に蓄えていたのだろう。クマは靴の上部をくわえてドッグフードを運んだということは、容器の概念があるということだ。

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 群馬県の男性がクマに襲われて右脚の親指を咬まれ靴を持っていかれた……。そのことを思い出した。

 クマは、締めてある玄関を横に押し開ける動作をして私を惑わす。クマが食べ物を安全な場所に運んで食べる行動はよく見られる。たとえば被害対策を行なっている養蜂場では養蜂箱ごと川を越えた森にまで運んで破壊していた。養蜂家は、この行動を「クマは養蜂箱を肩に担いで(立って)運ぶ」と表現している。

次の記事に続く 「撃つな! 当たる!」襲われたマタギは血まみれに…これまで3000回以上も『クマ』と遭遇した研究家が今でも忘れない“恐怖体験”

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