クマは死に際に強烈な反撃を見せる

 私自身はクマに襲われた経験があるが、他人がクマに襲われる様を見る機会はそうあるものではない。それを撮影して心地が悪かった。クマの狩猟はつねに、襲われる、反撃される危険を孕んでいる。ハンターにしても、そのような過去の事例を数限りなく古老から聞いていて、自身にも起こり得る可能性を知りつつ襲われる。

 その瞬間、クマの側、狩猟者の側がどのような心理状態に陥っているのか興味がある。撃たれたクマの体の一部でも動いていれば「存命」の判断でハンターは次弾で「とどめ」を刺すだろうが、ぴくりとも動かなければ緊張感が解ける。

 しかしクマは、失われ逝く命を懸命に保ちながら最後の反撃に出る。体はすでに死んでおりながら魂でのみ反撃する藤沢周平の『必死剣 鳥刺し』の主人公のような誇り高いクマを見た。

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クマたちは生きるために必死だ。罠にかかったのち、手足を自ら切断して逃げる個体もいる。写真右の個体は、3本足で子どもを育てる母グマである(撮影:吉澤映之)

 秋田県がクマを追い出して生息数を数える調査を始めた頃の1981年4月下旬、秋田県T町で行なわれたクマの巻き狩りに帯同したときのことだ。ブナ帯には残雪が2メートルほどあり、残雪上を移動するクマは黒と白のコントラストで発見しやすいので、クマ狩が行なわれる季節だ。雪消えの早い南斜面は残雪の中にパッチ状に笹原が広がってきていて、回廊になっている。

 この町でのクマの狩り方は勢子(射手の方向へ追い込む役割の人)による追い出し方を取らず、尾根にハンターたちを並ばせて向かいの南向きの斜面を望視する。観察斜面の裏側にはすでに私と射手が回り込んでいて、監視側がクマを発見すると600メートル先に遠射をかけて追い上げる。

 どうなるか……この距離ではそうは当たらない。戦場みたいに撃つ。私はブナの根元の根開けの穴に入りブナを背にして立ち、待った。

 ブナの木肌がほのかな熱を分けてくれる。暑い汗が一転凍り、がちがちと震えるので思い切って下着を替えた。乾パンをぽりぽり嚙んで3時間、谷底の藪から若いクマが飛び出してきた。雪原を突っ切ってくる。私は500ミリレンズをぶん回した。