同作で彼女は出演はせず、監督に徹した。泰我が翔に怒りを爆発させるシーンでは、演じる石内がいままで怒ったことがないというくらい温厚な性格で、なかなか思いどおりに演じられなかったらしい。そこで池田は「あと1回しか撮らないよ?」とあえてドライに言ったり、主演の倉に「おまえ、そんな芝居でいいのか?」とこっそり言わせたりした。それだけに、彼が感情を爆発させる瞬間に立ち会えたときは泣きそうになるくらいうれしかったという。
《そういう演出ができたのは、自分が女優として、いろんな監督の演出を受けてきたおかげだと思いますね。私も厳しくされたことがありますけど、それって「この子はできる」と思ったからこそ、根気強く演出してくれたんだと思うんです。そんなふうに、信じて引き出すこと、それが監督としての1番の務めだと思って臨みました》(『日経エンタテインメント!』2021年1月号)
地元福岡に「お礼を返したい」
倉とは昨年(2025年)公開の映画『リライト』で、今度は共演者として久々に一緒に仕事をした。彼にとって池田は恩師のような存在とあって、このときの撮影には「パワーアップしたところを見せるぞ!」と気合いを入れて臨んだという。これに対して池田は、撮影でカットがかかったあとで、倉が監督の松居大悟ではなく自分のほうを見るので、「監督はあっちだから!」と思うこともあったと明かしている(『キネマ旬報』2025年6月号)。
池田は映画ファンだけに、初監督作品では尖ったことをしたいという気持ちはあったが、結局、自分がやりたいアート性の強いことは一切封印した。そうやって完成したのは、特産品のパプリカや伝統芸能の和太鼓演奏、かつての炭坑のシンボルである2本の巨大煙突など地元の風物をしっかり盛り込みつつ、主人公たちが夜の学校のプールに忍び込むといった青春映画の王道シーンもあったりと、わかりやすく、あらゆる世代の琴線に触れるような作品だった。リリー・フランキーが「ベテラン監督の作品みたいな質実さを感じた」と評したのもうなずける。池田としては、この作品では尖ったことよりも、《福岡県民だったわたしが、田川市を舞台にして映画を撮ることで貢献して、お礼を返したい、と第一に》考えたのだという(『キネマ旬報』2020年12月上旬号)。
《私は人助けをしたいという気持ちでこの仕事をやっている側面があるんです。人間のこと好きだから》とは池田の最近のインタビューでの発言だが(『GOAT Winter 2026』小学館、2025年)、初監督映画に臨んだときもまさにその気持ちだったのだろう。仕事を通じての“人助け”としてはまた、音楽アーティストとして一昨年にリリースした楽曲「Utopia」は、自分が世話になった人の愛犬が亡くなったと知り、その悲しみと孤独に寄り添いたいとの思いから手がけたという。
