ヒットを打てばラジオが速報、卒業式は1000人以上が記念撮影……空前の一茂フィーバー
オープン戦初出場は3月5日、神宮球場のロッテ戦で4回から三塁守備に就いた。試合前、あまりのメディアの多さに新外国人選手のダグ・デシンセイは、報道陣がメジャー通算237本塁打の自分を追いかけていると勘違いしたが、「ライバルのナガシマ選手は?」と質問され、プロでまだ実績のない新人と比べられたことに呆れ顔。
プライド高き元・大リーガーは、「これだけ注目されているのなら、オープン戦第1戦から先発三塁で出場しなければファンに申し訳ない。オレは出る」と首脳陣に直訴して、関根潤三監督を困らせるほどだった。
一茂は初打席で初球を強振してレフト前にプロ初安打を放ち、フジテレビはこの様子を午後1時から全国放送。ラジオのニッポン放送でも、「歌謡曲ヒット速報」の中で「長嶋一茂初ヒット」を緊急中継するほどだった。翌6日、一茂に第1打席であわやホームランのセンターへの大飛球を打たれたロッテの園川一美は、「自分のことより、いつ長嶋が出てくるのか、そのほうが気になった」とコメントを残している。
メディアやファンだけでなく、当時の長嶋茂雄に憧れて野球を始めた世代の現役選手たちも、その息子・一茂の一挙手一投足を見守った。3月25日、オープン戦の巨人戦が組まれていたが、関根監督の勧めもあり立大卒業式に出席。一茂のまわりを卒業生の父兄や、写真撮影を求める女子学生ら1000人以上が取り囲み、立大キャンパス内は一時騒然とする。
話題性ばかり先行していたが、一茂は大学通算11本塁打を記録。4年時には主将を務め、三塁手として六大学ベストナインに輝き、ソウル五輪を目指す野球日本代表にも招集された。
この時、社会人球界の有名選手たちが顔を揃える中、大学生から選ばれたのは一茂や捕手の古田敦也(立命館大)ら数人のみだった。大学通算打率.225という確実性のなさを不安視する見方もあったが、アジア選手権の中国戦で、一茂は横浜スタジアムのバックスクリーンへ特大のホームランを叩き込む。誤解されがちだが、“長嶋茂雄の息子”は人気だけでなく、実力も大学球界のトップクラスの選手だったのである。
