エキセントリックなのに可愛くてゆるい
[選定者]ちいさな美術館の学芸員:都内のとある美術館の学芸員を経て現在は複数の大学で教鞭を執っている。美術館の楽しみ方をnoteで連載。著書に『学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』、『忙しい人のための美術館の歩き方』など。今年新刊2冊の刊行を予定。
[2025年のベスト]「記録をひらく 記憶をつむぐ」展(東京国立近代美術館) 2025年7月15日〜10月26日
[2026年のおすすめ展覧会]「春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪」展(府中市美術館) 2026年3月14日〜5月10日
昨年東京国立近代美術館で行われた「記録をひらく 記憶をつむぐ」展は、タイトルだけではパッとわからないのですが日中戦争・太平洋戦争をテーマにした展覧会でした。
大々的な広報をせず図録も作らないという珍しいやり方でしたが、口コミで話題が広がり会期終盤に私が訪れた時には会場はかなりのにぎわいを見せていました。展示の中心は、戦時下において陸海軍からの依頼を受けて画家たちが描いた戦争記録画で、当然凄惨な絵もありましたが、むしろ私の印象に残ったのは心を高揚させる絵の方でした。雲海を駆ける戦闘機の格好良さ、青空に花のように舞うパラシュートの幻想的な美しさ。悲惨な戦場すらも見る人の眼を喜ばせるように表現できる美術の力と怖さを同時に実感する貴重な機会となりました。作品を通して鑑賞者一人一人に考えることをうながす、とても誠実な展覧会でした。
さて、今年注目している展覧会としては、本誌刊行時点ですでに開催中の府中市美術館の「長沢蘆雪」展があります。
都内の公立美術館の中で、府中市美術館は板橋区立美術館と並んで、江戸絵画の魅力を草の根的に広めてきた美術館だと私は思っています。そんな府中市美術館が満を持して、江戸絵画の中でも奇想の画家として知られる長沢蘆雪の単独展をするのですからこれは期待大です。非常に個人的な話ですが、十数年前に蘆雪の代表作《龍虎図襖》を見るために和歌山の無量寺まで泊まりがけで行ったことがあります。しかし、その日はあいにくの大雨でお寺に着くと湿度が高い日は文化財保護のため公開していないと言われ、作品を見る事が叶わなかったのです。その因縁の襖絵も今回東京までやってくるというので、これはもう見に行くしかありません。エキセントリックなのに可愛くてゆるい不思議な蘆雪ワールドをぜひ一緒に楽しみましょう。
※約1万5000字の全文では、総勢14名の学芸員がそれぞれ選定した美術展が紹介されています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています。
◆学芸員が必ず行きたい2026年美術展〈大アンケート〉
蔵屋美香|横浜美術館館長
ちいさな美術館の学芸員
加藤祥平|徳川美術館学芸員
千葉真智子|豊田市美術館学芸員
児島大輔|東京国立博物館保存修復室長
保坂健二朗|滋賀県立美術館ディレクター(館長)
田坂博子|東京都写真美術館学芸員
藪前知子|キュレーター・東京都現代美術館学芸員
稲庭彩和子|独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター 主任研究員
吉田恵理|静嘉堂文庫美術館学芸員
木下直之|静岡県立美術館館長
町村悠香|町田市立国際版画美術館学芸員
金子信久|府中市美術館学芸員
成相肇|東京国立近代美術館主任研究員
出典元
【文藝春秋 目次】東京極秘対談 ティール×トッド 世界は終末を迎えているのか/池上彰×佐藤優 “暴れ獅子”トランプと“女豹”高市の生きるか死ぬか/官邸官僚の第二の人生
2026年5月号
2026年4月10日 発売
1300円(税込)

