「映画が完成したらロヒンギャの子どもたちに観てもらいたいと思っていたから、ヘヴィな話をどこまでリアルに描くかはすごく悩みました。話を軽くしすぎて、彼らの経験を矮小化するのも嫌だし……。これでよかったのか、今も正解はわからないです」
プロットを練る過程では、現地の支援団体の人とワンシーンずつ読み合わせをして意見をもらった。ロケハンにもロヒンギャの人に同行してもらい、実際の逃亡ルートと風景は似ているか、密航船の形はこれでいいか、など細部まで丁寧に確認したという。膨大な手間暇が、スクリーンの隅々に宿るリアリティを生み出したのだった。
わざとらしい演技のなかった二人の子役
映画の主人公に据えられたのは幼い姉と弟。演じるふたりの子役がすばらしい。こんな逸材を一体どこで見つけたんだろう。
「小学校で子どもたちのインタビューをしているとき、弟役の5歳の男の子に出会いました。なんだか人を惹きつけるすごい力をもっていそうな匂いがしたんです!」
男の子の自宅を訪問すると4歳上のお姉ちゃんがいることが判明。藤元さんはこの姉弟と「かくれんぼ」をして仲良くなったあと、「映画に出てみない?」と誘った。
「たぶん弟のほうは意味がわかっていなかったと思うけど、お姉ちゃんは『演技に興味がある』と言ってくれて。『ちょっと走ってみようか』ってテスト撮影した時点で、チーム全員が『このふたりで間違いない!』と確信しました」
彼らが移民二世だったこともキャスティングの決め手になった。つらい国境越えを経験した子に、映画の中でそれを追体験させるのはあまりにも酷だ。その点、二世なら親から話を聞いているだけなので心理的負担は少ないだろう。そんな配慮にも難民がたどってきた道の険しさが現れていてハッとさせられる。
これまでの作品では、演技を引き出すために長回しすることも多かった藤元さんだが、今回の現場では「あの角を曲がってほしい」「かくれんぼをしてほしい」「頑張ってサトウキビを盗んで」など、ふたりのアクションを淡々と指示するにとどめた。「こういう感じで演技して、みたいなことは言わないように気をつけた」という。その手法のおかげか、子役のふたりにわざとらしさは一切なく、張り詰めた気持ちや心細さがダイレクトに伝わってくる。

