ロヒンギャの観客が爆笑した意外なシーン

 完成後、作品と監督はベネチア国際映画祭をはじめ世界各地に招待された。残念ながら出演者の多くはパスポートを持てないため、映画祭に連れていくことは叶わない。

「だから彼らの住んでいる街で特別に完成試写会を開いたんです。映画館を貸し切りにして、出演者とその家族150人くらいに集まってもらって、めちゃくちゃ盛り上がって!」

姉役のソミーラは劇中でも語った通りドレスを着て登場。嬉しそうな表情を見せた(藤元監督提供)

 藤元さんはとてもうれしそうにその日の様子を語る。集まったロヒンギャ難民のほぼ全員が「映画館で映画を観るのは初めて」だったそう。どれほど晴れがましい気持ちだっただろう。想像するとこちらまで胸が熱くなる。

ADVERTISEMENT

「上映中、意外なところで笑いが起きました。ロヒンギャ難民がブローカーに怒られるシーンに爆笑とか。もちろん『国境を越えた時や海を渡った時の恐怖心が蘇ってきた』という感想もありました。同時に『世界中の人にこの映画を観てほしい。私たちについて知ってほしい』という声も多かった」

©2025 E.x.N K.K.

 もともとカメラマンを目指していた藤元さんを変えたのは『動くな、死ね、甦れ!』(89年)。ソ連の炭鉱町のストリートチルドレンだったヴィターリー・カネフスキー監督が、少年時代の記憶をもとに撮った名品だ。

「すごく刺さりました。それまでは映画って娯楽のためのものだと思っていた。でもカネフスキー作品を観て、知らない人の記憶を身近に感じる映画があるんだと知りました。いつか自分もそういう映画を撮ってみたいと思った」

 ミャンマー社会で生きる権利を奪われ、国外に逃げざるを得なかったロヒンギャ難民。彼らはわたしたちからずいぶん遠い存在だ。でもこの映画を観終わったあと、まさに「知らない人の記憶を身近に感じる」だろう。

ふじもと・あきお 1988年、大阪府生まれ。大学卒業後、ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学び、在日ミャンマー人家族を描いた初長編『僕の帰る場所』(17年)で注目される。21年にはベトナム人技能実習生の実態を描いた『海辺の彼女たち』を公開。主にミャンマーなどアジアを舞台に合作映画を制作し続けている。

かない・まき 1974年、千葉県生まれ。テレビの構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、15年より文筆家・イラストレーター。著書に『世界はフムフムで満ちている』『パリのすてきなおじさん』『テヘランのすてきな女』など。「多様性をおもしろがる」を任務とする。難民・移民フェス実行委員。

INTRODUCTION

“世界で最も迫害されている⺠族のひとつ”とされるロヒンギャ難⺠たちの逃避行を描く。実際に故郷・ミャンマーを追われた当事者たちが総勢200名出演。その声と眼差しは演技未経験ながらも映画に圧倒的なリアリティと強度を与え、第82回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部⾨で審査員特別賞受賞など各国の映画祭で評価されている。監督・脚本を務めるのは移⺠の物語を描いた『僕の帰る場所』(17年)、『海辺の彼⼥たち』(20年)などで国内外から注⽬を集める藤元明緒。実話をもとにした容赦のない現実の描写に幻想的な表現を交え、難⺠たちが辿る旅路を映し出す。

 

STORY

ミャンマーで迫害され、隣国の難⺠キャンプで暮らす9歳のソミーラと5歳のシャフィの姉弟(実生活でも姉弟)。ふたりは家族との再会を願い、叔⺟とともに遠く離れたマレーシアへ旅⽴つことに。国籍を剥奪されパスポートを持てない彼らは、密航業者に導かれるままに漁船へと乗せられる。⾃然の猛威や⼈⾝売買の危機に阻まれながらも、姉弟は疑似家族のごとき同胞とともに過酷な道のりを必死に乗り越えていく。

 

STAFF & CAST

脚本・監督・編集:藤元明緒/出演:ムハマド・ショフィック・リア・フッディン、ソミーラ・リア・フッディンほか/2025年/日本・フランス・マレーシア・ドイツ/99分/配給:キノフィルムズ/©2025 E.x.N K.K.

次のページ 写真ページはこちら