駆け出し時代の木村について、作家の小林信彦がかつてコラムのなかで、彼女にふさわしい役どころになかなか恵まれないこともあり《特色を発揮したものがないように思っていた》が、主演舞台『恋人たちの予感』(2002年)を観て、劇中で流れる《十年間の服装の変化といい、まずはぴったりで、好演といえる。オプティミストという役柄も合っている》と評したことがある(小林信彦『映画が目にしみる』文藝春秋、2006年)。

 木村の天性ともいえるオプティミスト(楽天家)なキャラクターは、近年、とくに母親役を演じるうえで発揮されているように思う。上記のコラムでは《どんな役もそつなくコナすが、(これが木村佳乃だ!)というものがない》とも書かれていたが、いまやキャリアを重ね、人生経験をにじませるような、木村佳乃以外に誰が演じるのかと思わせる役も目立つ。2023年にドラマ『この素晴らしき世界』(フジテレビ系)で演じた芸能事務所の社長・比嘉莉湖は、まさにそんな役だった。

 莉湖は先代社長の父親が倒れたため、急遽事務所を継いだものの、所属する大女優がスキャンダルにより海外に逃亡するという事態に直面する。事務所は幹部らに牛耳られており、弱い立場の莉湖は言われるがままに、大女優にそっくりな主婦・浜岡妙子(大女優とあわせて若村麻由美が1人2役で扮した)に身代わりになってもらって謝罪会見を開くことになる。劇中では、物語が進むにつれて、芸能界の闇ともいうべきさまざまな事件も浮上し、それに対して莉湖が妙子や周囲の人々と結束して立ち向かっていくさまが描かれた。

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フジテレビ系で放送された『この素晴らしき世界』(2003年)主演の若村麻由美と、木村佳乃(ドラマ公式Xより)

 男性社会で奮闘する莉湖の人物像は、木村によれば、いままで出会った女性社長のイメージをつなぎ合わせてつくったという(『ESSE』2023年8月号)。だが、木村にとってもっとも近しい社長は何といっても、デビューする彼女のために所属事務所のトップコートを設立した渡邊万由美社長(彼女も莉湖と同じく芸能事務所の創業社長を父親に持つ)だろう。

 マネージャーを兼任した渡邊とは二人三脚で現場を駆け回り、苦楽をともにしてきた。《社長と女優というよりも、戦友と言ったほうが当てはまる。どちらが社長なのかわからない時があります(笑)》とは渡邊の言だが(『月刊BOSS』2010年11月号)、ひょっとすると木村は社長と一緒に行動するうち、自らも経営者マインドを身につけたのかもしれない。莉湖もそんな経験があったからこそ演じられた役に思える。

夫・東山紀之が社長に

 折しも『この素晴らしき世界』が放送された2023年には、木村の夫・東山紀之の所属するジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)が、創業社長のジャニー喜多川の生前における性加害が次々と告発され、強い批判を浴びていた。同事務所は9月7日に行った記者会見でその事実を認めて謝罪、さらに藤島ジュリー景子社長が辞任し、その後任に東山が芸能界を引退して就くことが発表される。偶然とはいえ、木村のドラマも終盤に入ろうとしていた時期だけに、劇中の妻を追うように夫が“リアル社長”になったと話題を呼んだ。

東山紀之 ©時事通信社

 東山は社長就任の翌年に応えた取材で、自分が社長になると話したときの木村の反応やその後の家庭での振る舞いについて明かしている。

《社長就任を決断するにあたって自宅で、芸能活動を引退して被害者への補償に専念したいと、妻に話をしたら、静かにうなずいてくれました。誰も手を挙げないことを引き受けてしまう性格であることを、妻は分かっていたのかもしれません。記者会見の後など、世の中から大変な批判を受けた時も、私の心が折れないようにと明るく振る舞ってくれました。深いところで自分を理解してくれているし、信じてくれていると感じました》(「デイリー新潮」2024年5月5日配信)