失われた筈の大神殿に足を踏み入れてみたら
例えば1人の専門家は、文化的遺物としてデータベース化されていたランプとコインが、VR大神殿の中に置かれた“モノ”として存在している姿をじっくりと観察し、その配置の特徴に気づいた。(中略)このランプの配置の特徴は、ビザンチン占領下時代にこの場所に誰が住んでいたかを推測する重要な手がかりになったのである。(『VRは脳をどう変えるか?』より)
既存のデータベースをVRで「3次元化」したことで、それまでプロの研究者が誰1人気づけなかった世界が見えてくる。実は、私はVR教育の研究の中で、これと全く同じ光景を目にしたことがあります。
それは、小学6年生の児童たちに古墳時代の授業をしたときのことです。事前に学校の先生と打ち合わせ、私は埴輪をはじめ、古墳を立体的に見られる教材を作成して授業を行いました。一方、同じ映像を2Dで見るクラスも設け、それぞれでどんな学習効果の違いがあるかを調査したのです(文献1)。
すると、3Dで映像を見た子どもたちは、奥行きが分かりやすいことから、埴輪の置かれている順番や配置に注目し始めました。例えば、人型の埴輪はある規則性をもって置かれているのではないか、と。一方、同様の映像を2Dで見たクラスでは、そうした点に気づいた子どもはほとんどいませんでした。これまで教科書や資料集で2次元的に見ていたものがVRによって3次元化していくことで、子どもたちはこうした新たな視点・発想から、より主体的に、より深く学習ができるようになるはずです。
授業におけるVRの活用は、宇宙や過去への旅行といった、SF的な用途だけに限りません。現実的な問題として、例えば学校の近くに学習上重要な遺跡があったとしても、そこへ子どもたちを引き連れて見学に行くのは、先生や学校にとって簡単なことではありません。まとまった時間を作り、現地までの移動手段を整え、今年のように猛暑であったら日陰で休める場所を確保し……と、解決すべき課題が数多くあるのです。しかし、VRを使えばそうした問題に煩わされることなく、気軽に〝校外学習〟が行えます。今ではGoogleのTour Creatorというツールを使えば、Googleストリートビューから簡単にVR映像を作れるので、先生が直接教材開発を行うことも可能です。