子どもたちがVRを使うことのリスクと可能性
一方、まだ成長過程にある子どもたちがVRを使うことで、どんなリスクがあるのかを知っておくことも大切です。本書はそうした点にもきちんと触れられています。いわゆるVR酔いや、長時間の使用による目の疲れはもちろん、圧倒的な臨場感を持つVRでどんな体験をさせるのか、という点には十分な配慮が必要です。
私は、VR教育においてはHMDと呼ばれるゴーグル型の機器だけではなく、デスクトップ型の機器の方にも可能性を感じています。
実際に、zSpaceというVRディスプレイを使って、高校で授業を行ったことがあります(文献2)。生徒たちはスタイラスペン(タッチペン)を使って、立体的に見える地球を掴んで裏側を覗き込んだり、プレートを1枚ずつ剥がしたりすることができました。この授業において、生徒たちは地球の構造だけでなく、なぜ地震が起きるのか、なぜ東日本大震災はあの場所で起きたのか、ということを能動的に、直感的に学んでいくのです。
このとき重要だったのは、デスクトップ型のVRを使用したことで、先生対生徒、そして生徒間のコミュニケーションが可能になったことでした。先生はVRを体験している生徒の表情を確認でき、生徒同士は同じVR教材を見ながら会話ができる。もしこれがゴーグル型のVRだったとしたら、こうしたコミュニケーションは生まれなかったでしょう。
今の学校教育において、どこでVRを活用すればよいのか。そうしたアイデアを1番持っているのは現場の先生です。だから私は本書をぜひ、学校の先生たちに読んでもらいたいと思っています。どんな科目で、どんな単元でVRを使えば効果的なのか。現場目線でそうしたアイデアを教えてくれる先生たちと協力することで、ワクワクするような、新しいVR教育が生まれてくるはずです。本書はそのきっかけとなる、重要な1冊だと思います。
文献1:Shibata, T. et al. (2017). Generating Questions for Inquiry-Based Learning of History in Elementary Schools by Using Stereoscopic 3D Images, IEICE Transactions on Electronics E100.C(11), pp.1012-1020.
文献2:Shibata, T. et al. (2018). Encouraging Collaborative Learning in Classrooms Using Virtual Reality Techniques, EdMedia, pp.1577-1582.