VR(仮想現実)業界のトップランナーである、スタンフォード大学のジェレミー・ベイレンソン教授。彼の新著『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』では、VRが変革をもたらしつつある様々な業界が紹介されている。同書を、東京福祉大学教育学部の柴田隆史教授がレビューする。人間工学を専門とし、長年VR教育の研究・開発にも深く携わってきた柴田教授は、「VRと教育」の未来について、本書から何を読み取ったのか?

VRを使った “社会見学”で19世紀の町にタイムスリップ

「これから隣の席の人と宇宙に行ってみよう」「今日は小さくなって血管の中を探検してみよう」。VRを使えば、こんな “社会見学”が可能になります。本書でも紹介されている通り、既にアメリカやカナダの中学校は、ハーバード大学の教授が作成した「リバーシティ」というVRを活用しています。

©iStock.com

これは19世紀の町にタイムスリップし、医学について学ぶVRです。中学生たちはVR内で現代の知識とスキルを駆使して、19世紀の人々を悩ます病気や健康上の問題を解決していくのです。それを体験した子どもたちの学習意欲は向上し、特に教室での勉強が苦手な生徒ほど、その効果が強くみられたと報告されています。

ADVERTISEMENT

 こうしたVR教育において、キーワードとなるのは「3次元化」です。本書ではペトラ遺跡の大神殿をVRにした「ARCHAVEシステム」の話も出てきますが、これはVRの効果を考える上でも示唆に富む、非常に面白いエピソードです。そのVRのもとになったのは長年の発掘データ、すなわち「既に知られている事実」のみ。しかし、VR化された大神殿に初めて“足を踏み入れた”考古学者たちは、実物大に復元されたその姿を目にして、可視化されていなかったら気づきにくかった新事実を次々と発見していったのです。