厳しい尋問で“失禁シーン”が話題に…
田中は14歳の少年・建造が天城峠に行く道中で出会った女・大塚ハナを妖艶に演じたが、特に土工殺しの疑いをかけられ、渡瀬恒彦演じる田島刑事の厳しい尋問で失禁するシーンが話題に。「仕掛けはいりません、自前で行きます」と彼女が本当にしてみせたという伝説の逸話がある。
前年の1982年には映画『ザ・レイプ』で、性暴力を受け、苦悩しながらも加害者を告訴する女性・路子という難役に挑戦しているのだ。ヌードシーンもあり、メンタル的にもハード。役者としてのイメージも左右しかねない。ヌードに関しては、映画『北斎漫画』(1981年)でも、あっけらかんと披露しており、ドラマ「想い出づくり。」(TBS)でお茶の間の人気が上昇していた時期、こうしたオファーに応えていることに驚く。
いい映画になるなら、なんでもする――そんな壮絶な覚悟が見える田中裕子。ところが実は、彼女は最初から俳優を目指していたわけではなく、「文学座」を受けたのも、照明の仕事をやりたかったからというから驚きだ。
なるほど、確かに「野心」は感じない。あるのはむき出しの風情と涼しげな目元に宿る寂しげでいて、毒を含んだような色香。
近頃は「女優」と書かず「役者」「俳優」と表現することも多いが、20代の田中裕子を見ると「女優」と書かずにはいられない。女という性(さが)を細やかに演じ、物語に艶と緊張感を与えていた。映画『夜叉』(1985年)での、高倉健をめぐっての、いしだあゆみと田中裕子の睨み合い演技はすさまじい迫力である。
