SNSで「怪物は田中裕子だった」の声も
田中裕子はジブリ映画『もののけ姫』のエボシ御前の声でも世界的な人気を集めている。公開は1997年だったが、昨年3月に4Kデジタルリマスター版が北米で公開、同年10月には日本国内のIMAXシアターでも公開され、世界的リバイバルヒットとなっている。
エボシ御前もそうだが、田中裕子は、何かとてつもなく重いものを過去に置いてきた役が抜群にうまい。映画やドラマで彼女の姿が映ると、彼女自身が“秘密”そのものに思えることがある。作品が始まると田中裕子は消え、「ひとり何か抱えながら生きてきた人」が映りこむ。
第76回カンヌ国際映画祭において、脚本賞および日本映画史上初のクィア・パルム賞を受賞した大ヒット映画『怪物』(2023年)もそうだった。彼女が演じた、感情がなくなったような校長のインパクトが強すぎて、SNSに「怪物は田中裕子だった」という書き込みも相次いだほど。是枝裕和監督は田中と仕事をするのが憧れだったとしながらも「(田中)裕子さんを撮るというのは、やはり覚悟がいる。樹木希林さんとはまた別の意味で試されている感じはありました」とインタビューで語っている。(「CINEMORE」2023年6月5日)
まさに「老ける」を「更ける」と書きたくなるほど、静かに年を取り熟練した演技を見せている田中裕子。かつて“魔性”と呼ばれたその佇まいは、今、すべてを包み込むような慈愛と、失われつつある大切なものへの喪失感を「ぬるっ」と漂わせる。
最新作は2024年11月に公開された映画『本心』(石井裕也監督)。舞台は近未来2040年、田中が演じるのは、死んだ母親・秋子と、仮想空間上に蘇らせたVF(ヴァーチャル・フィギュア)の秋子との二役だ。Netflixで配信されているが、少し怖い未来と同時に、彼女の姿から自分の中に閉じ込めた本心が覗けるかもしれない。
確かに、田中裕子を観るのは、覚悟がいる。
