東京医科大学の事件が起こってから、私は医師に取材するたびに「女子一律減点」問題について、意見を聞いてきました。各分野の一線で活躍する医師の中に、「女性医師は戦力にならない」と言う人は一人もいませんでした。むしろ女性医師のほうが平均して能力が高く、「女性よりも、一人前になると親のクリニックを継ぐため病院を辞めてしまう開業医の子弟のほうが問題だ」と指摘する医師もいました。
女性医師の6割が「理解」を示した
しかし一方で、女性医師が増えると現場が回らなくなると考える医師がいるのも確かです。先日、NHKが「女性医師の6割が『東京医大の女子減点』に理解」というニュースを報じました(2018年8月7日)。
女性医師向けのウェブマガジンを発行する企業がアンケートを行ったところ、東京医大の対応に「理解できる」(18.4%)、「ある程度は理解できる」(46.6%)を合わせた回答が65%に上ったそうです。
その理由を聞くと「納得はしないが理解はできる」「女子減点は不当だが、男性医師がいないと現場は回らない」「休日、深夜まで診療し、流産を繰り返した。周囲の理解や協力が得られず、もう無理だと感じている」など、厳しい医療現場の現状から、やむをえないと考える女性医師が多いとニュースは伝えています。
医学部入試で女性差別があってはいけません。ただ、東京医大の問題は「女性差別はいけない」という理想論で終わってもいけないことがわかります。なぜなら、この問題が起こった背景には、勤務医の過重労働の問題があるからです。どうして日本の勤務医は、休日、深夜まで診療しなければならないほどの状況に追い込まれているのでしょうか。
新臨床研修制度がもたらした「医師不足」
勤務医の過重労働が社会問題として顕在化し始めたのは2006年頃からでした。04年に新臨床研修制度がスタートし、医学部卒業後2年間の初期研修が必修化されると、それまで大学病院で専門的な研修を受けることの多かった新米医師たちが、多くの診療科を回る新しい研修方式に実績のある市中の病院に流れるようになったからです。
そのため、人手不足に陥った大学病院が、地方やへき地に派遣していた医師たちを大学病院に呼び戻すようになりました。その結果、今度は地方やへき地の病院が医師不足に陥り、少ない人数で残された勤務医が、ますます過酷な労働を強いられるようになったのです。
2006年頃から東京医大が入試で女性を一律減点し始めたのも、新臨床研修制度によって大学病院や関連病院が人手不足に陥ったことがきっかけだった可能性があります。