東京・六本木の森美術館で館長を務める片岡真実さん。日々の仕事における哲学や、アートへの思いについて語った。

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ニューヨークでの鮮烈な体験

 私たちは現代アートと呼ばれる作品を主に展示しています。よく「現代アートってわからない」という声を耳にします。確かに古典作品は歴史的評価が定まっていますが、現代アートは背景や芸術家を知ることで理解が深まる喜びがあります。現代アートはこの「わからない」感覚こそが魅力なのです。

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片岡真実(かたおか まみ・森美術館館長) ©文藝春秋

 人は、年齢や経験を重ねながらあらゆる分野に自然と触れますが、一方で先入観に囚われることもあります。それが若い方にはまだありません。作品を前に「わからないけれど、これはなんだろう」と想像を膨らませたり、自分なりに理解しようとしたり。固定観念から解放されるのが現代アートのいいところです。そういう意味では若者との相性がいいのかもしれません。

 かくいう私も、アメリカの大学に留学していた頃にニューヨークで現代アートの洗礼を受けました。1985年から86年にかけて、ペンシルバニア州からニューヨークに住む叔母のもとへ休みを利用して出掛け、美術館やギャラリーに足を運びました。そこには教科書で見るような作品の本物がゴロゴロと展示されていて、なんて面白いんだろうとたびたび訪れるようになったのです。

 なかでもソーホー地区で観た、ウォルター・デ・マリアの《The New York Earth Room》という作品には度肝を抜かれました。ギャラリーの床一面が50センチ以上の深さの土で埋め尽くされているのです。ビルという人工物の中に自然の土がただ広がり、室内彫刻として作品化されていました。アメリカでは1960年代に自然の大地や景観を素材として制作するランド・アートや、アーティストの観念を表現したコンセプチュアル・アートが興りましたが、当時のニューヨークにはその残り香がまだありました。日本では観たことがないものばかり。この鮮烈な体験が、今の仕事に至る原点だったのかもしれません。