『コズミック・ガール 宙わたる教室』

 一昨年秋、伊与原新さんの小説を原作とするNHKドラマ『宙(そら)わたる教室』が放送開始されたのと同時期に、シリーズ第2弾の連載が小誌で始まった。

「前作は岳人と藤竹先生、という二人の男性を中心に描いたので、今度は女の子の主人公、と直感的に決めました」

 ヒロインの飯星佐那は、惑星科学者カール・セーガンを師と崇め、NASAのキーホルダーをリュックにさげる高校2年生。エリート女子高から東新宿高校定時制に編入してきた。

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 小学生の頃、岳人たちの「火星のクレーター再現」の研究発表に魅了された体験を持つ彼女は、今は藤竹先生も辞め、科学部のメンバーも全員卒業してしまったこの定時制で、再び科学部を立ち上げる。

「十代から七十代まで多様な年齢、バックグラウンドの人物を登場させたことを読者に喜んでもらえた『宙わたる教室』ですが、実は、本を出してから、実際の定時制の生徒さんや先生と触れ合う機会が増えました。それで、定時制高校は今、若い頃に学習機会のなかった人や勤労学生の学び場というより、行き場を失った十代の最後の砦、セーフティー・ネットになっていることを知ったのです。なので今回は、十代後半の若者のみを登場させ、なぜ彼ら・彼女らが居場所を失ったのかを、一人一人、丁寧に描くように努めました」

 浮きがちな佐那をぶっきらぼうに支える、音楽が生き甲斐の少女みちる。闘病生活が長く、少し年長の理(おさむ)。日本社会に不信を拭えない中国籍の宇辰(ユーチェン)。学力は低いが、科学実験に目を輝かせる高校1年生の翔太。

「彼は父親と二人暮らしの設定です。今の定時制高校は、お父さんと子供、という家庭が少なくないと聞きました」

 翔太の口にしたアイディアがきっかけで、新生科学部はペットボトル製ロケットを廃棄食材由来の燃料で打ち上げる実験に挑戦し、コンテストでの上位入賞、そしてアメリカ行きを狙う。

「モデルにさせていただいた、兵庫県立洲本高校科学技術部は、ブドウ糖を燃料にして打ち上げに成功した。僕は、まだ現実では実証できていないが、理論上はブドウ糖より馬力が出るであろう“でんぷん燃料”を、佐那達に開発させたかった。今回一番苦心した部分かもしれません。僕は科学者だったので、“ありえるかもしれない”というラインにはかなり細かくこだわります」

 高校生だけでなく、やる気のない担任、謎の理解者・副校長、そしてOB・OGも中盤から続々と登場する。この第2弾を読んでから、第1弾『宙わたる教室』を読むのもまた良し。上質な科学エンターテインメントだ。

いよはらしん 1972年大阪生まれ。2010年『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。25年『藍を継ぐ海』で直木賞受賞。近著『翠雨の人』。

コズミック・ガール 宙わたる教室

伊与原 新

文藝春秋

2026年4月22日 発売

宙わたる教室 (文春文庫 い 106-3)

伊与原 新

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2026年3月4日 発売

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