『死刑にいたる病』や『鵜頭川村事件』など、人間の狂気や業の深さを描き、読者を震撼させてきた作家・櫛木理宇さん。その最新作となる文庫書下ろし警察小説『首なし晩餐 スローライフ警視の事件簿』が刊行されました。
新潟県を彷彿とさせる地方都市。若きキャリア警視の眸巳は、署長として赴任し、兄姉と同居生活を送ることに。料理上手な兄が振る舞う美食に彩られた穏やかな日常は、凄惨な「首なし連続殺人事件」の発生で一変。美食と猟奇殺人という強烈なギャップの意図や、地方都市の人間関係に潜む光と影について、著者の櫛木理宇さんが物語の舞台裏を語ります。
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「がっつり村社会でもないぐらいの、私が住んでいる町ぐらいの程よい田舎」
――今作は、櫛木さんご自身の出身地でもある新潟県を彷彿とさせる地方都市が舞台です。あえて地方都市を選び、そこに若いキャリア警視を赴任させようと思った理由からお聞かせいただけますか。
櫛木 昔は「殿様修行」的にお飾りの署長として若いキャリア警察官を地方に送ることがあったんですね。今はもうキャリア警官が急に署長になることはあまりない、と何かの資料で読みました。でも、フィクションですし、あえてそういうイレギュラーな存在がいてもいいかなと思いました。
――現代を舞台にしつつ、お飾りのはずの署長が、自ら事件に首を突っ込みたがり、それに困惑する所轄の警官たちとの間に、やがて意外な親和性が生まれてくる。この狙いが面白いと思いました。
舞台を新崗県、つまり新潟をモデルにしようと思われたのは、やはり地域の雰囲気に親近感があったからでしょうか。
櫛木 そうですね。作中で山菜を採るシーンがあるのですが、そのくらい山が近くて身近にあって、その程度の田舎となると、新潟ぐらいがちょうどいいかなと思いまして。
深い山の中だと、人間関係があって事件が起きて、というのは描きにくい。がっつり村社会というわけではない、私が住んでいる町ぐらいの“程よい田舎”というのをイメージしました。
「凄惨な事件が続くと、読者も飽きちゃう」
――本作は、櫛木さんの「ホーンテッド・キャンパス」シリーズのようなキャラクターたちの軽妙なやり取りの楽しさと、それに相反する事件の凄惨さや人間関係の業の深さというミスマッチが、読者を引きつけて離さない魅力があります。今回は、その軽妙なやり取りに「美食」が加わりました。山菜料理やキャンプ飯といった美食と、猟奇的な事件を掛け合わせるアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
櫛木 この作品の原型は、もともと警察アンソロジー(『戸惑いの捜査線 警察小説アンソロジー』)に収録された『ルームシェア警視の事件簿』という短編でした。そのときはスローライフというよりルームシェアが主題で、食事は出てくるものの、そこまで強調はしていなかったんです。
今回、新たに書き下ろすにあたって、何か特色を打ち出したいなと思いまして。ルームシェアだけだと弱いかなと。「スローライフ」ということで田舎料理みたいにしたほうが、読んでいて楽しいかなと考えました。
――食事シーンと凄惨な事件との落差、シリアスさの転換は意識されていますか。
櫛木 これは「ホーンテッド・キャンパス」でもやっている手法なのですが、凄惨な事件が続くと、読者も飽きてしまうというか、どこかで違う転換が欲しくなると思うんです。そこで食事シーンや笑える会話を入れることで、テンポが良くなるかなと。
