「日本はでっかい村社会だと思う」
――物語には、地方都市の光と影の「影」の部分が色濃く落とし込まれていると感じました。完全な村社会ではないけれど、「隣町の誰々さん」といった距離感が存在する。地方特有の人間関係の濃さが、凄惨さを生むという点についてはどうお考えですか。
櫛木 私自身ずっと田舎に住んでいるので、その窮屈さもわかります。今住んでいるのは新興住宅街で近所付き合いは希薄ですが、道を1、2本離れると、昔からある古い家ばかりが並ぶ“村社会の通り”があったりします。そこは世界がちょっと違う。ある知り合いがそこに住んでいるのですが、その地域では代替わりで父親や母親、祖母が毎回お隣さんと結婚しているそうなんです。子供の頃から決まっているような感じで。
――それはすごいですね。
櫛木 その知り合いの代で「もうやめる」ってなったらしいですけどね。これ以上は危険なんじゃないかって。そういう希薄なところも濃いところも知っている感じです。そのぐらい古くなると、プライバシーもへったくれもない。「あそこのお家は……」みたいな感じに、どうしてもなってしまいます。
――都会ほど人口が密集していない一方で、人間関係は程よく濃いという状態が、かえって事件を生み出しやすいのでしょうか。
櫛木 そうですね。私は、日本はでっかい村社会だと思っています。世界的に見ると殺人による死者数って、アメリカではギャングの射殺が多いですが、日本で一番多いのは家族間の殺人なんです。家族という存在が密室のようになってしまい、愛憎が濃くなる。そして事件に発展していくということもあるかもしれません。
「事件のほうは“影”で、主人公サイドは田舎の“光”を描いている」
――本作でも、かつて共に暮らした仲間内での事件が描かれています。また、中年会社員がバットで襲われる事件では、その背後に某ヨットスクールを彷彿とさせる、地域では有名な“サークル”の存在が影を落とします。
櫛木 田舎の英雄みたいな存在って、タブーになりがちじゃないですか。例えば甲子園に出るような野球チームが強いと、選手が多少調子に乗っていても、周りが非難できなくなる。営業成績が良くて会社がもてはやされていても、中はドロドロしている。これも“田舎あるある”だと思います。テレビにも映るし、有名で地元を活性化してくれたし、といった感じで、大っぴらに悪くは言えない空気ができることってあると思います。そういった組織・コミュニティ、その“闇”を描き出そうと思いました。
――そうした光と影の部分を描き出したい、ということですね。
櫛木 事件のほうは「影」で、主人公サイドは田舎の「光」、いいところを描いています。今の時代、主人公が辛い目に遭う作品はあまり受け入れられないというか、読んでいる人がストレスを感じてしまう。なので、主人公は周りにお兄ちゃんお姉ちゃんがいて、優秀で、田舎のいいところを享受している。読者の方には、ストレスなく、純粋に「いいな、羨ましいな」と思いながら主人公たちの暮らしを読んでもらいたいんです。