今、ZOZOマリンスタジアムで一人の売り子が注目を集めている。売り子ペナントレースで1位を独走しているまりなさんの話ではない。かといって昨年まで売り子アイドルグループ・マリーンズカンパイガールズとして活躍した伝説の売り子の今井さやかさんでもない。8月25日にチューハイの売り子デビューした田中倭人(やまと)くんだ。ZOZOマリンスタジアムでは唯一の男性アルコール類販売員として頑張っている。
「男の売り子が珍しいので、やっぱり目立ちます。でも逆に注目をされるのはいい事かなあと思います。やっぱり買ってくれる方は女性が多いですかね」
憧れの背番号9を追いかけて
彼にはZOZOマリンスタジアムでただ一人の男性売り子というだけではなく経歴もまた注目のポイントとなっている。習志野高校野球部出身。2000本安打を目前に控えるマリーンズのレジェンド・福浦和也内野手の後輩にあたるのだ。
「小学校も一緒ですし、同じ少年野球チームに入っていました。中学校も一緒です。偉大な先輩を追いかけてきました」
子供の時からマリーンズの背番号「9」の伝説をいつも耳にしてきた。中学校の野球部が使うグラウンドにはライト側に大きな打球ネットが設置され、「福浦ネット」と名付けられていた。聞くと「ネットを超えて奥の電車の線路まで打球を飛ばしていたので危ないとネットが出来た」と教えられた。練習前、いつもそのネットを見上げた。それを見ているだけで大先輩の偉大さを感じることが出来た。だから高校は迷いなく習志野高校を選んだ。当時は内野と外野を守っていた。残念ながら最後の夏はベンチ入りすることは出来ずスタンドからの応援。ベスト4で市立船橋高校に敗れた。卒業後、専門学校に進み、ZOZOマリンスタジアムでアルバイトを始めた。売り子を支えるチェッカー(売り子さんの売り上げ杯数をチェックしたり、ビールの樽替えのサポート)の仕事だった。少しでもずっと憧れてきた大先輩の近くで仕事がしたい。そう思った。
転機が訪れたのは今年の夏。売り子の数が足りなくて困っていた時、勇気を振り絞って志願した。ずっと売り子たちをバックアップする仕事をしていて、興味を持っていた。男性がいないのは知っていた。それでも、いつかチャレンジしたいと思っていたので「やらせてください」と迷わず頭を下げた。