〈ハッキリ言います。私は無罪です〉
地面師といえば、奇しくも手紙が届いたこの年の7月、ネットフリックスのドラマが一味の犯行を描いて大ヒットした。ドラマのタイトルは『地面師たち』だ。犯行グループを率いたハリソン山中役の豊川悦司をはじめ、ハリソンの右腕として登場する辻本拓海役の綾野剛ら、真に迫る俳優陣の演技が評判を呼んだ。わけても元司法書士の後藤義雄を演じたピエール瀧が相手の不動産デベロッパーを騙す場面で何度も言ったセリフ「もうええでしょう」は、この年の流行語にもなった。以来、地面師という名称が広く世間に知られている。
積水ハウス事件は、このネットフリックスドラマの下敷きになっている。ハリソン山中のモデルが、主犯格として逮捕、起訴された内田マイク、そして辻本拓海のモデルがカミンスカス操だろう。ドラマでは詐欺の舞台が都心の古い寺院に変わっているが、現実の事件は五反田に存在した老舗旅館の海喜館である。
そんな本物の地面師詐欺グループの“頭目”が、なぜ今頃になって私に手紙を寄こしたのか。理由は、私自身が事件摘発直後に『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社)を出版したからだろうか、とも小考した。手紙は次のように書いている。
〈森さんはこの事件に関してかなり詳しい人だと思います。事件になって直に“地面師”を出版されました。全て実名でノンフィクションだと聞いています〉
ご丁寧に〈聞いています〉という理由についても説明付きだった。
〈実は私も購入したのですが、(刑務所に)領置されてしまって読んでいません。森さんは私をどう思っていますか? 何故私にインタビューに来なかったのですか?〉
もとより本を書くにあたり、カミンスカスへの取材は何度も試みてきたが、実現しなかった。単なる恨み節だろうか、とも感じたが、読み進めると、どうやらそうではない。
真っ先に次の言葉が目に留まった。
〈ハッキリ言います。私は無罪です〉
そこから地面師の“頭目”との長い文通が始まった。
